研究領域 | 融合マテリアル:分子制御による材料創成と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
25107709
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岸村 顕広 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70422326)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ナノ材料 / ポリイオンコンプレックス / ベシクル / ドラッグデリバリーシステム / ブロック共重合体 |
研究概要 |
本研究では、PICナノ構造体をプラットフォームとして主に3種の融合マテリアルの創製に挑戦し、(1)ポリマー-無機物質融合材料の創製、(2)バイオナノリアクターを基盤とした材料合成、(3)PICコンパートメント内部を利用した材料合成、を実施している。平成25年度は、(1)に関して、低分子物質の保持が得意でないPICsomeの弱点克服に向けて、吸着剤として期待できるメソポーラスシリカナノ粒子(MSN)をテンプレートとするPICsome形成と内部への物質封入とその応用を試みた。具体的には、粒径約60 nmのMSNを用いて、その利用率85%にてPICsome内に封入することに成功した。また、PICsome封入後にMSNの表面改質を行うことで薬物汎用性の見込める薬物担体とすることができた。次に、水溶性低分子の制がん剤として知られるゲムシタビンをターゲットしてMSN表面にスルホン酸基を導入したところ、制がん剤として知られるゲムシタビン(GEM)を吸着させることができ、擬似体液条件下で徐放可能であったた。このGEM吸着MSN@PICsomeは、A549などの培養がん細胞に対してGEM単剤と同等の殺細胞効果を示した。さらに、MSN@PICsomeのマウス尾静脈投与後の血中循環について検討したところ、十分な血中循環が確認できたため、担がんマウスを用いての抗腫瘍効果の評価を行った。その結果、GEM単剤に比べて優れた腫瘍成長抑制効果が得られた。PICナノ多孔体への無機ナノ粒子の配置については、ポアサイズよりやや大きい酸化鉄微粒子を共存させ、コアセルベーションを起こすことでその空隙内へ格納可能であることが明らかとなった。 (2) , (3)に関して、PICsomeに封入したβ-galactosidase (β-gal)に対して、その基質であるX-galを用いて酵素反応を行ったところ、生成物が水に難溶であることからPICsome内での固体生成が確認されたが、内水相のみならず、PIC膜に付着して集積する場合があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、ポリイオンコンプレックスの特徴を生かした水系での融合材料開発に挑戦している。中でも、ナノスケールの空隙を有するベシクル構造(PICsome)、PIC多孔体構造、及びマルチコンパートメント構造PIC-foamの活用を検討しており、特に(1)ポリマー-無機物質融合材料の創製、(2)バイオナノリアクターを基盤とした材料合成、(3)PIC孤立空間内部を利用した材料合成、を狙っている。平成25年度は、(1)について、表面積が大きく吸着能力が期待できるメソポーラスシリカナノ粒子を活用した融合材料開発を進めた。その結果、当初計画ではPICsome内部にMSNを封入し、薬物の担持と徐放挙動を実施するところまでが目標であったが、首尾よく検討が進んだために、これを大きく越える成果を得るに至った。具体的には、生物評価を行うところまで研究が進行し、培養細胞や腫瘍移植マウスを用いた実験においても、有意な治療効果を得ることができた。また(2),(3)についても基礎的な評価を進めることができたため、次年度以降、研究計画に従っての事業の遂行が実施できるものと判断している。以上より、本研究課題は、当初の計画以上に進展していると結論できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果から、PICsomeサイズに見合った無機ナノ粒子との複合材料形成が可能であることが示された。今後は、前述の(1)について新しいアプローチに取り組み、特にPICsomeについては、その内部空間での無機材料合成や有機-無機ハイブリッド材料合成、あるいは、PIC膜そのものを有機-無機ハイブリッド材料とすることで安定性や強度、徐放能などの物性を改良する手法の開発に取り組むことで、研究のさらなる推進をはかる。一方で、PICナノ多孔体を生かす方法論として、無機微粒子との複合化について詳細な条件検討を行うことで、コアセルベーションを利用したナノ構造形成と、無機微粒子のナノスケールでの空間配置の制御を可能にするための研究を推進する。目的の(2), (3)に示した内容に関しては、特に酵素を封入したリアクターについて中心的に進めることで、PICコンパートメントの特徴を生かした融合材料の創製を行うための研究を推進する。以上の通り研究を推進することで、研究計画が十分に遂行されるものと考える。
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