研究概要 |
本研究課題の目的は、溶液中で構造および光機能が安定な希土類錯体をユニットに用いた発光性融合マテリアルの創成である。具体的には、配位子と種々の希土類イオンの融合により温度やイオンに応答して発光状態(発光色・偏光性)を変化させる環境応答型発光性希土類融合マテリアルを創成する。 一連のランタニドを中心金属に有するヘリカルな希土類錯体(LnL, Ln=Nd, Eu, Gd, Tb and Ho)の合成とその光基礎物性を論文としてまとめた。EuLおよびTbLを発光ユニットとし、ベンゼンジカルボン酸で連結した鎖状錯体の合成法を基に、アントラセン(An)ジカルボン酸An-dcでの架橋を試みた。このAn-dcは、紫外光励起によりAn骨格の青色発光を示す。EuLとAn-dcの鎖状構造であり規則性を伴っていることは、IR, XPSおよび放射光XRDで確認した。しかし、この系ではEuLもAn-dcも室温、77 Kのいずれの場合でも発光を示さない。TbLでも同様の化合物を合成することができたが、これらも発光しない。この興味深い現象は、本来の目的と拮抗しているように見受けられるが、消光の原因を明らかにすることはより強発光性の化合物を設計するための重要な結果である。 An骨格の電子遷移は、π共役の単軸方向の遷移モーメントLaが発光に寄与する。An-dcは、9, 10-位にカルボン酸を有し、LnLとはこのカルボン酸がカルボキシレートとして金属イオンと結合する。すなわち、Anの単軸方向に金属イオンが結合すると、電子構造は大きく変化し、発光を司るLa遷移よりも低エネルギー側に発光に関与しない遷移が新たに生じる可能性が示唆される。これを証明するために、ナフタレン(Np)骨格を有する同様のリンカーを用いた。その結果、Npに由来する発光とLnの発光が連結鎖型に錯形成しても保持された。
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