研究領域 | 融合マテリアル:分子制御による材料創成と機能開拓 |
研究課題/領域番号 |
25107733
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小柳津 研一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90277822)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 電荷輸送 / 分子ラッピング / 凝縮レドックス系 / 複合電極 / 有機活物質 / π共役固体 / レドックス伝導 / エネルギー貯蔵 |
研究概要 |
本研究は、レドックス活性基を含有する有機ポリマーを活物質とした有機二次電池に関する研究において、物質移動の促進が効率高い電荷拡散に繋がることに基づき、伝導性と蓄電特性を両立しうる斬新な融合物質を創出することを目的とする。一般に蓄電能を有するポリマーは電子伝導性が乏しく、単独で電池容量を確保することは困難であり、有機二次電池を実用可能なレベルに到達させるには、導電助剤の添加による活物質の電気抵抗低減が必要となっている。従来の研究ではポリマー設計に力点が置かれ、分散状態や界面構造、集電体との相互作用など、本質的な構造因子は十分に研究されていなかった。 これに対し本研究は、導電助剤であるπ共役有機固体とレドックスポリマーの融合による新材料創製を目指して、界面構造や分散状態などスケールを俯瞰した構造設計によりポリマーの性質を最大限引き出すことを目的とした。電気伝導と電荷輸送を融合させ、材料設計のスケール性を分子レベルからナノ寸法へ拡張し、斬新なエネルギー貯蔵マテリアルを創出するのが狙いである。本年度の具体的な成果を以下に記す。 (1) 斬新なπ共役/凝縮レドックス融合物質の創出:π-πスタックによりバンドル形成するSWNTを、高密度レドックスポリマーの一つであるポリ(ニトロキシド置換メタクリレート)(PTMA)により分子ラッピングし、導電性を維持しながら高分散体を得た。PTMA被覆したSWNTをPTMA中に均一配置することにより、微量な炭素含有量で導電性ポリマー電極を形成させた。得られた電極が透明性と高速な充放電特性を示すことを明確にし、光電極としての可能性も含め応用範囲を拡大した。(2) π共役/凝縮レドックス融合物質における律速過程の解明:電子授受効率を高める導電助剤として炭素繊維との複合系を含め、集電体上に形成した多様な組成・膜厚のπ共役/凝縮レドックス融合物質における電荷移動を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度は高密度レドックスポリマーとπ共役有機固体の複合構造に着目し、一般性ある知見として、SWNTや各種炭素繊維などが形成する導電性ネットワークが電極全体としてのエネルギー貯蔵密度の増加に繋がることを複合電極の界面に注目した構造制御から実証した。特に、SWNTへの高密度レドックス分子ラッピングに着目し、π共役系が本来持っている親和性を最大限引き出す方法論で、これまで異質とされたπ共役固体と凝縮レドックス系の分子レベルでの融合を計った。電荷貯蔵可能なπ共役/凝縮レドックス複合系の設計と合成、安定かつ高速レドックス能の電荷輸送材料としての展開という明確な目標に向かって、界面の分子レベルでの精密構造制御を手段とする超高速・超高密度エネルギー貯蔵物質の創出により斬新な有機蓄電デバイスを創出することが可能となり、当初の計画を前倒しした研究展開につながった。 具体的には、π共役/凝縮レドックス融合物質の創出に関して導電性と電荷貯蔵特性を両立させた修飾CNTを合成した。高密度レドックスポリマーを分散度低く重合し、活性エステルを末端修飾した後、アミノ化したMWNTと縮合する手法で、高密度なグラフト化MWNTを合成できることを初めて明らかにした。また、MWNT上に開始点を導入した表面グラフトROMPにより、レドックス活性基導入量が分子レベルで制御された融合物質を得た。均一なポリマー被膜を描像し、定量的電荷貯蔵特性とチューブ間の接触による高い導電性を正確に立証するとともに、充放電のサイクル安定性を明らかにした。次いで、π共役/凝縮レドックス融合物質における律速過程の解明に関しては、複合電極の電荷移動抵抗を低下させることが電極全体のレドックス効率の向上につながるという仮説のもと、低下させるべき律速過程を分極法を駆使して解明した。以上の成果をもとに、次年度以降に斬新な融合物質の創成に繋げるための基礎を確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、初年度成果を基盤として、当初計画を加速して実施し確実な成果集積につなげたい。具体的には、以下の項目について推進する。(1) 律速過程と充放電性能の相関解明:複合電極における電荷の移動抵抗への寄与が推測される素過程として、ポリマー内の自己電子交換、ポリマー/π共役界面での交差電子交換、π共役固体ネットワークの電子移動、π共役固体集電体間の電子移動に分類し、各過程の寄与について電極組成・構造を系統的に変えたπ共役/凝縮レドックス融合物質の交流インピーダンス応答をもとに解明する。π共役固体の組成を調整した電極の電荷移動抵抗が固体/ポリマー間の接触面積と相関する組成領域、膜厚の異なる電極における電荷移動抵抗がネットワーク形成を示すパーコレーションモデルに基づく導電挙動に合致する条件を明らかにする。材質の異なる集電体上に形成された複合電極における電荷移動抵抗から、電荷移動の支配因子を明確にする。このような論理構築の過程で、Nyquistプロットから求まる電荷移動抵抗が充放電特性と直接相関をもつことを実証し、充放電特性向上に向けた活物質の設計指針の一つを導出する。(2) 律速段階における電荷移動の効率向上と高密度エネルギー貯蔵物質としての実証:π共役/凝縮レドックス融合物質に電荷補償系を共存させ、電荷保持力を確かめる。予備知見として明らかにしている高密度レドックスポリマー単独による可逆的エネルギー貯蔵を、π共役系との分子レベルでの融合により増幅し、従来性能を超えた有機電池の実現(単なる炭素繊維複合系では不可能なレート特性など)に挑戦する。 以上を総合し、π共役/凝縮レドックス融合物質を組合せて得られる「全有機・超高密度有機蓄電デバイス」の試作と動作試験を実施し、充放電特性および耐久試験の結果をもとに、エネルギー貯蔵材料としての融合物質設計に随時フィードバックさせる。
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