研究領域 | プラズマ医療科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
25108505
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北野 勝久 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20379118)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プラズマ医療 / プラズマ誘起液中化学プロセス / 大気圧プラズマ / フリーラジカル / プラズマ殺菌 |
研究概要 |
本研究の目的は、プラズマ医療の反応素過程を考える上で重要である生体に対する活性種の供給を選択的に行う技術の開発にある。ラジカル、イオン、電子、中性種など多種多様な活性種を生成するプラズマと生体との相互作用に関する学術領域を開拓する上で、作用機序となる活性種の同定は必須であり、活性種のドーズ量を定量することで生体反応への作用機序が明らかになる。プラズマによっても生成される活性酸素・窒素種の多くは生体内フリーラジカルとしても知られ、生体内の生化学作用に関する研究は多く行われている。しかしながら、生体内における生化学的反応だけでは生成しにくい大量の活性種をプラズマで供給できることや、濃度勾配を持つ反応場であるという点で大きく異なる。この反応場を考える上で、液体(水)に対する活性種供給をプラズマ誘起液中反応場のモデル系として用い、気相・液相の活性種診断を定性・定量的に行うことで、生体への供給量の推定を行う。さらに、特定の活性種生成に特化したプラズマ装置の開発を行う。 本年度は主にプラズマを照射した液体であるプラズマ処理水の研究を行った。プラズマ処理水は高い殺菌力を有しているが、その半減時間が温度依存であり、アレイニウスプロットに乗っており、冷凍することで長期間の保存が可能である事が判明した。また、アレイニウスプロットより体温では4秒の半減時間であることが判明し、人体の消毒へ用いると体温で速やかに失活するという消毒薬としての理想的な特性を有していることが判明した。 また活性種の評価を行うために、スピントラップ剤と併用した電子スピン共鳴法によりスーパーオキサイドアニオンラジカルの測定を行ったところ、殺菌力の半減時間の温度依存と見事に一致していたことから、これまで考えていたプラズマの直接照射による低pH法の作用機序であるスーパーオキシドの細胞内酸化ストレスであることが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
プラズマによる溶液中への活性種の供給方法として、直接照射、間接照射に加えて、プラズマ処理水という新しい方法に関しての研究が当初の計画以上に進展することができた。室温では数分程度の半減時間であることから、世界的に着目されているplasma activated waterとは異なる性質を示している。言い換えるならば、プラズマ処理水の短時間的な活性が失活した後の残存活性を評価しているのがplasma activated waterと言える。このプラズマ処理水は大腸菌を2000桁低下できる非常に高い殺菌力を有するものの、体温では速やかに失活するという消毒には好適な性質を有している。また、冷凍することで長期間にわたり殺菌活性を保持することにも成功している。このような評価を行うために、溶液中で1O2、OH・、O2-・、O3、H2O2、O3、NO2-,NO3-などの活性種を定量して研究を進めたことでこのような成果が実現できた。
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今後の研究の推進方策 |
プラズマ処理水の物理化学的な特徴に関する知見が得られたが、その物理化学的な反応式は不十分なところもあるため、引き続き研究を進めるものとする。また、大気圧質量分析装置による気相中の活性種の分析結果と、これまで行ってきた溶液中の活性種の分析結果を定量的に評価するために、異なる放電条件のプラズマ源を用いることで研究を進める。これらの研究を通じて、新学術研究領域全体へプラズマ医療の物理化学なモデルの構築に寄与し、他班の研究プロジェクトへの貢献を行うものとする。
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