研究領域 | プラズマ医療科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
25108510
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
内田 諭 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (90305417)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プラズマ / 生体膜 / 損傷 / 分子動力学 / モデリング |
研究概要 |
本研究は、プラズマ-生体膜界面における活性種の力学的挙動および活性種による膜構成分子の解離について、古典および量子的分子動力学法を併用して解析することにより、プラズマ照射による脂質二重膜の損傷機構を理論的かつ定量的に解明していくものである。 期間内において、(1)希ガス-大気混合プラズマ中における酸素活性種の放電パラメータを流体モデルにより計算する、(2)古典的分子動力学法によりプラズマ-生体膜間における酸素活性種の挙動を模擬する、(3)酸素活性種によるリン脂質の解離機構を量子計算的に解明する、(4)断片化した脂質二重膜の分子モデルを構築し、膜安定性を評価する、(5)等価エッチングレートを導出するとともに、動力学解析結果をデータベース化する、といった各目標を達成するとともに、成果の有機的連携により研究全体を推進する計画である。 本年度(平成25年度)は膜損傷に至る前段階プロセスである生体膜近傍までの放電活性種の挙動および活性種による膜構成分子(リン脂質)の解離を理論的に精査することを主目的として、【課題1】プラズマ領域における各種放電パラメータの計算、【課題2】プラズマ-生体膜界面における酸素活性種の挙動解析、【課題3】酸素活性種によるリン脂質の解離過程の模擬、を行った。 【課題1】に関しては、連成解析ソフトウエアを用いて、針対平板電極における高気圧Neプラズマをモデル化し、その放電形状や密度変化を模擬した。【課題2】に関しては、水面に対する酸素正イオンの射突を古典的分子動力学法によりモデル化し、入射エネルギーに対する侵入深さ、温度分布、放出分子数の変化を定量的に示した。【課題3】に関しては、フォスファジチルコリンに対する酸素原子の射突を量子的分子動力学法により模擬し、入射方向や入射エネルギーに対する解離過程の変化を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【課題1】において、希ガスー大気混合プラズマの基本となる高気圧Neプラズマを対象とし、物理連成解析解析ソフトウエア(COMSOL Mutiphysics 4.3)を用いて、放電の挙動をモデル化した。針対平板電極における放電形状は、九州大の富田らによる実験結果と同様の傾向を示しており、解析モデルが妥当であることを確認できた。また、ストリーマが電極間を橋絡後、電子密度はns程度で急増することが定量的に示された。 【課題2】に関しては、生体膜界面である大気と水の境界面を対象とし、酸素正イオンの射突による挙動を古典的分子動力学法により模擬した。入射エネルギーの変化により、酸素正イオンの平均侵入深さや空洞の形成状態が異なることを定量的に示した。水分子の放出については、エネルギーの増加とともに単体から多量体となることが確認された。また、深さ方向の温度分布と放出分子数に相関があることもわかった。本結果の詳細は国際会議(66th Annual Gaseous Electronics Conference)および国内会議(第74回応用物理学会秋季学術講演会)にて発表しており、投稿論文(Japanese Journal of Applied Physics)としてまとめている(13. 研究発表の項を参照)。 【課題3】については、当初予定していたフォスファジチルコリンと酸素原子の量子分子動力学的反応モデルは構築できた。また、入射エネルギーや照射方向による解離過程の変化を定量的に示し、エネルギー的保存も確認した。本結果の詳細は国内会議(第61回応用物理学会春季学術講演会)にて発表している(13. 研究発表の項を参照)。なお、長時間解析への対応は、次年度も引き続き検討を進めて行く予定である。 以上より、本年度の研究においては当補助金を有効に活用し、到達目標を概ね達成できていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、前年度の結果を用いてプラズマ照射による膜損傷の分子モデリングおよび膜安定性の定量評価とエッチングレートの導出を行う。 (1)脂質二重膜における平衡状態の高速計算:蛋白質構造データバンク(PDB)に登録されている関連分子から立体構造を選定し、初期配置を決定する。本項目では脂質二重膜の分子動力学解析に実績のある古典力場を利用する。次にリン脂質群の分子挙動を計算し、二重膜として平衡状態に至るまでの過程を確認する。なお、以後の平衡計算における高速化を図るため、平衡状態のデータ保存ならびに初期入力値化できる補助プログラムを作成する。また、学外共同利用施設の大型計算機の活用を検討する。 (2)断片化した脂質二重膜の分子動力学的な挙動解析および膜安定性の検証:解離するリン脂質については、ランダムに抽出選択する。解離対象となる構成分子要素とその解離位置を前年度の研究結果を参考に活性種のエネルギー特性値を決定する。次に境界上方から見た占有断面積と境界面からの距離により損傷割合を計算する。断片化した分子要素を含む脂質二重膜を上記項目①で作成した補助プログラムを用いて再配置し、古典的分子動力学計算にて挙動を模擬する。以上の計算を繰り返し、断片化率と膜の揺らぎ時間及び溶媒の浸透率から膜安定性を定量評価する。 (3)等価エッチングレートの導出およびデータベース化:注入電力に対する生成レートの変化から到達活性種量を概算し、脂質二重膜における膜損傷の等価エッチングレートを導出する。研究項目(1)-(3)の大規模解析結果を大容量計算サーバに保存し、データベース化する。
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