研究領域 | プラズマ医療科学の創成 |
研究課題/領域番号 |
25108513
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北條 裕信 大阪大学, たんぱく質研究所, 教授 (00209214)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プラズマ / 糖鎖 / 糖タンパク質 / NMR |
研究概要 |
外科手術後に患部にプラズマを照射すると速やかな創傷治癒が観測される。生体へ照射されたプラズマは、まず最初に細胞表面に存在する糖鎖と相互作用し、その化学変化を引き起こして創傷治癒に至るものと考えられる.このため、プラズマの照射により糖鎖にどのような化学変化が起きているのかを解析することが、創傷治癒過程に至るメカニズム解明の第一歩と考えられる。しかし、天然物の糖鎖は高度に不均一であり、天然物を用いて、プラズマの影響を解析するのは容易ではない。本研究では、化学的に均一な単糖、糖鎖等を合成し、それらに対してプラズマ照射を行い、糖、ペプチド鎖の化学変化を明らかにする。本年度の具体的な実験内容は以下の通りである。 1.単糖誘導体の合成:糖鎖ミミックとして、単糖の還元末端をメチル化したガラクトース等を合成した。まず糖鎖水酸基をアセチル化し、還元末端をメチルグリコシドへと変換した後、アセチル基を除去して目的物を得た。 2.NMRによるプラズマ照射前後での構造変化の解析: 1で合成した糖誘導体に対して、手術に用いられているのと同様の条件下でプラズマを照射した。糖鎖誘導体の濃度は、血中のグルコース濃度と同じ10 mg/mlで行った。しかし、NMRにより解析したところ、照射前後で糖鎖誘導体にほとんど化学変化は見られなかった。バッファー中でpHをコントロールしつつ照射しても同様であった。合同セミナ-において他の研究者とディスカッションを行ったところ、プラズマの影響を見る他の研究では、もっと低い濃度での糖、アミノ酸の影響が考慮されており、糖鎖誘導体の濃度の影響を考慮する必要があることが示唆された。来年度の研究に反映させる予定である。 3. 糖アミノ酸誘導体の合成:生体内糖鎖のより良いミミックとして糖タンパク質ムチンのモデルペプチド合成を行うため、必要となる糖アミノ酸誘導体を既知ルートに従い合成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
10月に東海大学から大阪大学に異動したため、その準備および新研究室のセットアップ等に時間を要しており、なかなか研究時間が取れない状況であった.また糖鎖変化を解析するためにはNMR施設が必要であるが、蛋白研のNMRがリプレースのために使用困難になっていたため、解析が予定通りに行えなかったことも原因である。 現在これらの問題はほぼ解決できており、来年度は研究のスピードアップがはかれるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
プラズマ照射によって糖鎖誘導体にほとんど化学変化が見られなかったのは予想外であった.他の研究者のとのディスカッションの結果、このことはラジカルによって糖鎖誘導体に変化が起こらないのではなく、発生するラジカルの量が少ないため、高濃度の条件下では、微量の糖鎖誘導体しか変化しないため、NMRによる変化が見えないからではないかと推定された。ただし、血中のグルコース濃度は今回糖鎖誘導体に対するプラズマ照射実験を行った条件とほぼ一緒である.このため、手術後にプラズマ照射を行うと発生したラジカルは、ほとんど血中グルコースにトラップされ消失するはずである。 高濃度のグルコース存在下でも創傷治癒が起こる予想されるメカニズムはいくつか存在する. 1.創傷治癒に関わる分子は、きわめて少ない。2.手術の際には、細胞表面が露出するため、ラジカルはグルコースにトラップされることなく直接細胞表面と相互作用する。3.ラジカルとは直接関係ないメカニズムで創傷治癒が起こる。 今後これらの可能性を検証すべく研究を行う予定である。
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