研究領域 | 生合成マシナリー:生物活性物質構造多様性創出システムの解明と制御 |
研究課題/領域番号 |
25108719
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
塚本 佐知子 熊本大学, 生命科学研究部, 教授 (40192190)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生合成 / 真菌 / アルカロイド / 分子内Diels-Alder反応 |
研究概要 |
本研究代表者らは、2種のAspergillus属真菌からインドールアルカロイドであるstephacidine Aとnotoamide Bの鏡像異性体を単離した。それら化合物は分子内Diels-Alder反応により生合成されたと考えられるので、その生合成機構に関する研究を行っている。2種の真菌にはそれぞれ異なるエナンチオ選択性を有するDiels-Alderaseが存在すると推定している。 Diels-Alder反応の過程を明らかにするため、前駆体と推定される同位体ラベル化化合物を合成し、菌とともに最小培地に添加し生成する代謝産物の構造を調べている。平成25年度には、推定前駆体と考えられる6-epi-notoamide Tの同位体ラベル体(ラセミ体)を菌の培養液に添加し、生成する代謝産物構造を調べた。その結果、期待していたDiels-Alder反応により生成する化合物は得られなかったが、新規化合物を含む8種類の代謝産物を得ることができた。そして、興味深いことにいずれもラセミ体であった。この結果は、菌が本来の代謝産物とは異なる鏡像異性体も全く区別することなく代謝したことを示している。したがって、6-epi-notoamide Tよりも下流の代謝経路は、基質に依存していると考えられる。また、6-epi-notoamide Tの添加によって通常の培養では得られなかった化合物が新たに得られたことは、化合物の添加により休眠していた遺伝子が発現して新たな生合成が進行したことを示唆している。 本研究において、Diels-Alder反応によって生合成された鏡像異性体の生合成経路と生合成マシナリーを解明することは学術的に非常に高い価値があり、かつ、独創的な研究といえる。さらに本研究の成果は、複雑な骨格を一気に構築できる優れた酵素の設計に役立ち、産業界にも貢献できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度は、鏡像異性体を生合成している能登半島とハワイの菌において、着目しているアルカロイドの生産性に違いがあることを明らかにした。すなわち、ハワイの菌は液体培地でもアルカロイドを大量に生合成するが、能登半島の菌は液体培地ではあまりアルカロイドを生合成せず、寒天培地や米培地などの固体培地上で大量に生産することが分かった。これまで、菌による推定前駆体の変換実験は、両方の菌とも液体培地で行っていた。ハワイの菌ではDiels-Alder反応による代謝産物が得られるが、能登半島の菌では得られなかった原因は、この培地の性状による可能性がある。今後、この結果を踏まえ、能登半島の菌において固体培地を用いて前駆体の変換実験を行うことにより、Diels-Alder反応による代謝産物が得られるのではないかと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究により、培地の性状と代謝産物との関連を明らかにすることができた。今後は、能登半島の菌に対して、液体培地ではなく固体培地を用いてDiels-Alder反応の基質と考えられるnotoamide S, notoamide Tおよび6-epi-notoamide Tの変換実験を行い、代謝産物としてstephacidine Aやnotoamide Bが生合成されるかどうか調べる。その後、反応を司る酵素の実体を明らかにする。
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