ペプチド系化合物の多くは、マルチモジュール型の非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)によって生合成される。ペプチド化合物の構成成分アミノ酸は、NRPSの1つであるアデニル化酵素の基質特異性によって決定される。多くの研究者は、NRPSのモジュール構造をシャッフルすることでペプチド化合物の多様性を創出しようと試みているが、我々は、『アデニル化酵素の基質特異性改変による多様性創出』を提案し、研究を行った。 抗生物質ストレプトスリシン(ST)の化学構造の特徴は、βリジンペプチド構造(1~7残基)を有していることである。申請者らは、このβリジンペプチド構造の生合成メカニズムを明らかにし、ORF5、18、19の3つのNRPSがその生合成を担っていることを明らかにしている。そこで、本研究課題では、新規ST類縁化合物の創製を目的に、βリジンを基質として認識するORF5と19の二つの生合成酵素についてランダム変異を導入し、平成25年度に確立したスクリーニング系を用いて基質特異性が変化した変異型酵素を探索した。約8500の変異型酵素について基質特異性を調べたが、残念ながら目的とする変異型酵素を得ることはできなかった。そこで、βアミノ酸を基質とする他のNRPS酵素とのホモロジーをもとに立体構造モデルを構築し、基質特異性に関わるアミノ酸残基の特定を現在試みている。 ORF5と19のランダム変異実験に加え、抗生物質BD-12の生合成遺伝子クラスターから、βリジン以外のアミノ酸を認識する生合成酵素の同定を行った。BD-12は、βリジンのかわりにグリシンを有するST類縁化合物であるが、このグリシンは、NRPSではなく、Gly-tRNAを基質とする新規ペプチド合成酵素によってST骨格に導入されることを突き止めた。さらに、本酵素を利用し、新規ST類縁化合物の創製に成功し研究目的を達成することができた。
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