本研究課題では、糸状菌PKS-NRPSハイブリッド酵素に由来するテトラミン酸ポリケチド化合物の生合成機構、特に特徴的な環構造形成に関わる酵素の同定とその生合成メカニズム解明を目的とした。前年度に引き続き、ユニークな五環性の縮合環構造を有するフサリセチンAの生合成経路解析に注力した。 その特徴的な環構造形成のプロセスは大きく2つに分けることができる。立体選択的なデカリン環形成と、テトラミン酸とデカリンから構成されるエキセチンのフサリセチンへの変換である。本年度は、前者のプロセスに関わる新規酵素遺伝子fsa2を発見した。エキセチンの骨格形成を担うPKS-NRPSハイブリッド酵素遺伝子fsa1に隣接するfsa2遺伝子は既知のタンパク質や機能モチーフとは相同性を示さず、その生合成経路における役割の推定が困難であった。そこでfsa2遺伝子を欠失させ、その代謝物生産を評価したところ、エキセチンの生産性が大きく損なわれることに加え、エキセチンの異性体の生産が認められた。その異性体の構造を各種二次元NMR、CD測定等により、cis-デカリン環を有するエキセチンのジアステレオマーであると決定した。この結果より、Fsa2がエキセチン生合成経路において、endo選択的なDiels-Alderaseとして機能していることが示唆された。 一方、後者のプロセスについては、fsaクラスターとその周辺の遺伝子すべてを対象とした遺伝子破壊実験を行ったが、エキセチンからフサリセチンAへの変換活性を失った変異株の取得には至らなかった、遺伝子クラスターを完全に欠失させた変異株にエキセチンを投与しても依然としてフサリセチンA生産が回復したことと合わせて考慮すると、変換に関わる酵素遺伝子はfsaクラスターとは別の場所に存在していることが判明した。
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