活性化Irrの立体構造決定と酸素活性化機構の解明 昨年度に引き続き活性型Irrの構造決定を試み,本年度は特に,そのシグナル伝達分子としてのヘムの結合部位の立体構造について詳細に検討を行った。まず,これまでの研究から,その二段階酸素活性化の第一段階である分子状酸素の過酸化水素の活性化部位については,ラマンスペクトルの解析から,ヘモグロビンなど分子状酸素を安定に結合するタンパク質と異なり,分子状酸素を安定化する水素結合等の相互作用がないことが示され,容易にスーパーオキサイドアニオンが生成しすること,また,ヘム結合部位が疎水的なへムポケットではなく,容易に酸素分子へのプロトン化が起こり,過酸化水素の生成が誘起されることが示された。一方,もう一方のヘム結合部位であるヒスチジンクラスター領域は,昨年度の研究からヘムの分解と非ヘム鉄結合部位が形成されることが示され,さらに活性化Irrの質量分析の結果から,非ヘム鉄結合のアミノ酸としてHis63,His37等を同定することができた。これらの結果から,この非ヘム鉄結合部位は,過酸化水素を水酸ラジカルに活性化することで,自らのアミノ酸の酸化修飾を行うストレスセンサータンパク質PerRと同様な機能を有していることが示された。 酸化反応酵素としての利用を目指した分子設計 これまでの精製タンパク質を用いた実験から,Irrはタンパク質としての安定性が低く,また,溶存酸素と反応し自己酸化修飾反応が容易に誘起されることが明らかとなった。そこで,Irrを酸化反応に利用する環境として,Irrが安定に存在できる菌体内を検討し,in vivoの条件下で酸化反応を進行させることを試みるため,大腸菌内でIrrを発現する系を構築した。その結果,大腸菌内でIrrの発現を確認し,ヘム添加による酸化反応についてもその活性を検討できる系を構築することができた。
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