研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
25109502
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小林 長夫 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60124575)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 近赤外機能色素 / 典型元素化学 / 化学応答分子 |
研究概要 |
フタロシアニン類縁体に対して感応性リンを導入する検討を行い、中心に5価6配位リンを持つ各種錯体の合成を行った。得られた物性は、配位子であるマクロサイクルに応じて大きく異なる。以下その詳細を述べる 1. ある種のフタロシアニンのリン錯体において主吸収帯が1000 nmを超えることは本課題開始以前に見いだしていたが、今回様々な周辺置換基に対してリンの導入を行い、長波長化の本質を明らかにすることができた。具体的には、周辺置換基として16族元素をマクロサイクルの適切な位置に導入することが重要である。 2. フタロシアニンの環縮小体であるテトラアザポルフィリンにおいて、置換基効果が増大することが知られている。中心へリンを導入することでこの効果は更に増大し、吸収波形は通常の金属錯体とは大きくことなり、可視光のほぼ全てを効率よく吸収できることを見いだした。形状変化は単純な置換基効果で明確に説明できることから、精密な分子設計も可能である。 3. フタロシアニンのメゾ位窒素を除き、対称性を低下したテトラベンゾトリアザコロールリン錯体において、軸配位子の特性を利用した二量体の合成を行い、低対称化合物の集積効果を明らかにした。また、対称性を低下させることで、一重項酸素増感能を重元素を用いることなく向上できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フタロシアニン類縁体における典型元素錯体の報告例は数が少なく、その物性は研究開始時点でほとんど明らかになっていなかった。今年度はフタロシアニン・テトラアザポルフィリン・テトラベンゾトリアザコロールの3種についてリン錯体の合成に成功し、それぞれの物性が大きく異なることを見いだした。いずれにおいても、中心の5価6配位リンが物性発現に深く関係していることを分光学および理論計算により明らかにすることができ、フタロシアニンの化学と感応性リンの化学を融合することの重要性をある程度提示することができたのではないかと考えている。 また研究過程で、機能性部位の導入が可能な合成経路の確立および、リン上の電子状態を直接操作することの有用性についてもわかりつつあり、初年度の研究計画であった、「フタロシアニン類縁体のリン錯体の合成」についてはほぼ達成でき、今後最終目的である「近赤外光を利用したセンサー(スイッチング)分子の合成」についても、その準備ができたと見なしている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度合成に成功した各種リン錯体を元に、実際に環境応答性を示すような分子の開発を行いたい。 フタロシアニンリン錯体の近赤外吸収特性を生かしたまま機能化する手法として、硫黄上の置換基を変換する手法に注目している。原料のフタロニトリルの段階で適切な置換基が導入できる手法を開発する。またテトラベンゾトリアザコロールリン錯体はフリーベースフタロシアニンから1段階で合成することができるため、平行して様々な置換基を持つテトラベンゾトリアザコロールの合成・評価もできると考えている。 テトラアザポルフィリンにおけるリンの効果は周辺置換基効果の増大であったが、リンに直結した軸配位子の効果も重要と考えられる。特に、軸配位子に環境応答性を付加できれば吸収特性を大幅に変化できると予想できる。このような考えの元、軸配位子の異なるテトラアザポルフィリンリン錯体の合成を行う。第一候補として、塩基により脱プロトン化できるヒドロキシ基を持つものを想定している。また、周辺置換基に電子供与基を導入した際、本来2成分の吸収帯が近づく傾向にあることが分かっている。ここでより強力な電子供与基を導入すれば吸収帯の大幅な長波長化が見込めるため、そのような分子を実際に合成する。 以上が次年度の基本方針であるが、世界的にも合成例がない分子群であり、未知の部分も多く、想定外の進展が見られる可能性は十分あると考えている。その際は進捗状況を勘案しつつ、柔軟な研究展開を行いたい。
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