研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
25109504
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松井 敏高 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (90323120)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 酵素反応 / 反応機構 / 病原性細菌 / ホルムアルデヒド / 酸素活性化 |
研究概要 |
まず、種々の病原性細菌由来のIsdG型酵素について、発現系の構築およびタンパク質の発現・精製を行った。幾つかのタンパク質はバッファーの種類によっては光還元を強く受けることが判明し、紫外光照射を抑制することで、良質なヘム複合体の作成が可能となった。 次に、黄色ブドウ球菌由来のIsdGについて、ヘム分解に伴うC1生成物を決定した。これまでは従来型ヘム分解酵素(HO)と同じくCOを放出すると考えられていたが、その収率は低く(約15%)、主生成物はホルムアルデヒドであることが明らかとなった。この結果、IsdGの反応機構はHOとは大きく異なっており、結核菌のIsdG型酵素(MhuD)と類似であることが示された。これらの結果、IsdG型ヘム分解酵素に共通するヘムの歪みが、特殊なヘム分解反応を誘起する主因と考えられる。 さらに、IsdG型酵素の特殊なメカニズム解明を目指し、各種反応解析や反応中間体の同定を試みた。まずMhuDについては、反応初段階における中間体の観測に成功し、共鳴ラマンによる解析の結果、酸素結合型ヘムと同定した。意外なことに、酸素の振動に由来するシグナルは他のヘムタンパク質の場合と同様の位置に観測されたため、ヘム配位子の状態変化は機構変化の要因ではないと示唆された。さらに驚くべき事に、MhuDは過酸化水素のみによって最終生成物を与えうる事も見いだした。この結果により、ヘム分解経路は大幅に簡略化され、その絞り込みが容易になった。次に検討すべきは、HOでも見られる“水酸化ヘム中間体”の生成であり、現在までに水酸化ヘムの化学合成を終えており、次年度に複合体の調製および反応解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酵素の調製は順調に進み、高純度かつ大量の酵素を得ている。また、光反応の重要性に気づいたために、より高品質のヘム複合体が得られるようになり、より正確な反応解析も可能となった。IsdG反応の生成物解析についても予定通り終了した。ホルムアルデヒドの生成は従来の常識を覆す重大な発見であり、仮説通りに「歪みによる反応変化」の仮説を強く支持する結果が得られた。機構解明に若干の遅れは見られるが、過酸化水素によるヘム代謝反応の発見によってメカニズムは大幅に単純化され、次年度での機構研究を飛躍させるものと期待される。以上のことから、現在までの達成度は「概ね順調に進展している」ものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、IsdG型酵素の機構解明を前年度に引き続いて試みる。まず化学合成した水酸化と酵素の複合体を調製し、その分光特性などを明らかにする。さらに、過酸化水素や分子状酸素との反応も検討し、水酸化ヘムが最終生成物を与える“反応性中間体”であるかを検証する。また、反応の化学量論を決定するとともに、質量分析や各種分光測定によって他の反応中間体の補足・同定も試みる。これらの成果から可能な反応経路を絞り込み、ゆがんだヘムの分解機構を明らかにする。 第二に、MhuDにおけるヘムのゆがみを確認するため、ヘム-MhuD複合体の結晶化・構造解析を試みる。初期条件のスクリーニングの後、分解能を確認しながら結晶化条件を最適化する。最終的には放射光施設で回折データを取得し、結晶構造を決定する。さらに酸化活性種の構造モデルとして、各種配位子が結合した酵素の構造も決定し、タンパク質と配位子の相互作用などを明らかにする。 第三に、ゆがんだヘム上に酸化活性種を生成させることで、通常のヘム酵素とは異なる特性を持つ触媒の開発を目指す。具体的には、酸化剤としてアルキル過酸化物などを用いることでヘム分解を抑制し、代わりに高酸化状態の酸化活性種を生成させる。初めは比較的酸化が容易な基質への酸素添加反応を検討し、活性や立体選択性などを検討する。ゆがみによる反応性向上が見込める場合、さらに酸化が困難な反応(アルカン水酸化など)も検討する。
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