研究実績の概要 |
結核菌のIsdG型ヘム分解酵素(MhuD)に結合したヘムは異常に歪んでおり、特殊な生成物(マイコビリン)を与える新規反応機構に注目されている。前年度の研究により、”水酸化ヘム” がMhuD反応の中間体と予想された。そこで、化学合成した水酸化ヘムとMhuD複合体を嫌気的に調製し、酸素などとの反応を試みたところ、実際にマイコビリンの生成が確認された。さらに嫌気条件でヘム-MhuD複合体を小過剰の過酸化水素と反応させたところ、水酸化ヘムの部分的な蓄積が吸収スペクトルおよび質量分析によって確認された。以上の結果から、水酸化ヘムがMhuD反応中間体と同定された。 しかし予想に反し、水酸化ヘムの水酸基が開環部位(α-メソ位)ではなく、副次的な酸化部位と思われていたβ- またはδ-メソ位に存在する場合にのみ、マイコビリンは生成した。この結果は水酸化部位以外での酸化開裂を示しており、MhuD反応における生成物の特殊性、特に一酸化炭素が遊離しないことを合理的に説明する。この位置選択性の変化はMhuDタンパク質による立体障害では説明がつかないため、今後、水酸化ヘムの電子状態(特にラジカル構造)に関する情報が重要となる。また、水酸化段階のβ- /δ-メソ位選択性はヘムの歪みによる近接効果では説明できず、活性中心の極性残基(Asn7)と水酸化活性種(FeOOH)の相互作用に依るものと提案された。 水酸化ヘムからマイコビリンが生成する機構については、検討を始めたところであるが、既に酸素との反応で生じる中間体の検出に成功している。この中間体は鉄キレーターであるデフェロキサミンの存在下でマイコビリンを与えることから、既に開環した中間体(鉄-デフェロキサミン錯体)と予想している。今後、質量分析やEPR,ラマン分光の測定により、その構造を決定することで、機構研究が大きく進展すると考えられる。
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