研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
25109505
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
藤澤 清史 茨城大学, 理学部, 教授 (10251670)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 無機化学 / 生物無機化学 / 酵素模倣触媒 / 錯体化学 |
研究概要 |
生体内では、活性中心に含む金属タンパク質が様々な機能を発現している。これらの金属タンパク質は、通常の錯体で見られるような分光学的性質ではなく、際だって特徴的な性質が観測されることがある。つまり、このような機能・反応性を出すためには非常にまれな幾何構造と電子状態であることが必要である。これをうまく利用することにより、それが通常の人工系では成し得ない特異的・効率的な機能・反応性を実現できると考えられる。 本研究では、今まで申請者が行ってきた研究をさらに挑戦的・継続発展的に展開させるとともに、合目的に合成した配位子を用いて遷移金属酸素錯体の単離・結晶化を行い、詳細な電子構造を解明し、これを基にして生体模倣の酸化触媒系を構築し、「メタン資化細菌に学ぶ低級炭化水素有効利用を目指した高度分子変換触媒の開発」を、本新学術領域研究「感応性化学種が拓く新物質科学」の中で行う。 メタンをメタノールに変換する生体内酵素としては、鉄を含む可溶性sMMOと銅を含む膜結合型pMMOがあり、後者の構造は最近精密化された。後者のX線の結果及び少なくとも本反応では3モルの銅が高活性には必要であることから、単核の銅種あるいは、2核で2つの銅間が約2.6 A; (2.57 A; by EXAFS)離れている2核種が、酸化反応に関与しているとされている。また、メタノールやジメチルエーテルを基軸物質としてエネルギーを安全に貯蔵、運搬するというノーベル賞学者G.A. Olahらによる「メタノールエコノミー」も最近日本語版が出て、本研究から得られる結果の重要性が広く一般に知られるようになった。このような経緯を踏まえて、メタン資化細菌の酸化能力を十分に引き出して、未利用炭素資源であるメタンを有効に利用できる系の構築を目指して、重点的に行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記に示すような、成果を順調にあげている。 1 単核の銅サイトの反応性の検討し、統一的な理論を完成させる。 本研究では、さらにかさ高いアドマンチル基を金属側に導入した配位子を用いて、銅(II)スーパーオキソ錯体の構造(世界で2例目)を決定し、反応性の検討を行った。その結果、非常に弱い水素引き抜き反応しか起こさなかった(-40度での水素引き抜き反応の結合解離エンタルピーは約70 kcal/molであった)。このことから、酵素中では、エンドオン型のスーパーオキサイドにより、三重項になり、そのため高活性であることが初めて実験的に明らかにすることができた。 2 2核の銅サイト、特に高原子価オキソ種を生成させる。 配位子の金属側にメシチル基を導入した配位子を新規に合成し、そのタリウム塩の構造を決定した。これを用いて銅(I)錯体を合成し、酸素との反応を検討した。酸素付加体は観測されなかったが、酸素化生成物を再結晶すると、メシチル基中のメタンも水酸化され配位した、新規4核銅(II)錯体が生成した。外部基質との反応を現在行っている。さらに、どのくらい水酸化能力があるかを、結合解離エネルギーを用いて、検討する。 3 2核の鉄サイトの核共鳴振動分光により詳細な電子構造を明らかにし、その反応活性種の系統的酸化反応を行う。 これに関しては、まず、還元体の構造をX線結晶解析により決定した。核共鳴振動分光に関しては、共同研究者、ミネソタ大学のキェイ教授、スタンフォード大学ソロモン教授と共同で行っている。さらに、A04班の太田先生とも共同で研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の項目に従い、今後の計画を述べる。 1 に関しては、論文を投稿する。これは、A04班の筑波大学の小島先生との共同研究である。 2 に関しては、メシチル基を2'4'6'-トリフルオロフェニル基に変えて、水酸化反応を起こさない配位子系を合成する。これを用いて、酸素との反応を詳細に検討する。特に、低級アルカンの水酸化反応の可能性を模索する。さらに、反応中間体の同定を行っていく。 3 に関しては、まず、酸素錯体の結晶下条件を詳細に検討する。次に、57鉄を手に入れて、酸素錯体を合成し、核共鳴振動分光をSPring8で測定する。核磁気共鳴分光に関しては、ミネソタ大学のキェイ教授、スタンフォード大学ソロモン教授、さらにA04班の太田先生との共同研究である。さらに、鉄(II)αーケト酸錯体を合成し、その反応性の検討を行う。特に2 で合成した2'4'6'-トリフルオロフェニル基を導入した配位子を用いると、分子内水酸化反応を完全に抑制できると予想される。今までの実験結果から、電子供与のアルキル置換基などを導入すると、反応性が極端に落ちることから、この新規配位子を用いた錯体により、今までより高活性な反応が期待できる。さらに、単核の酸素活性種に関する研究にも着手する。 今まで未着手の4 アルカン類特にメタンの酸化反応系をつくる に関して、ゼオライトに関する論文検索などを行い、合成方法を検討する。
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