研究実績の概要 |
シリル(シラノン)錯体Cp*(CO)2M(O=Si(DMAP)Mes2)(SiMe3) (1:M = W, Cp* = η-C5Me5, DMAP = 4-(ジメチルアミノ)ピリジン,Mes = メシチル基; 2: M = Mo)とクロロシラン,メタノール,および水との反応を検討した。 クロロシランEtMe2SiClとの反応では,シラノンのSi=O結合にSi-Cl結合が付加したクロロジシロキサンEtMe2SiOSiMes2Clが生成した。ただし,反応は遅く,錯体1の場合は9日間,錯体2は30時間を要し,また,クロロジシロキサンの収率は,錯体1からは8%, 錯体2からは69%であった。 メタノールとの反応は比較的早く進行し,いずれの錯体の場合も7~8時間で完結した。生成物は,シラノンのSi=O結合にO-H結合が付加したメトキシシラノールMeOSiMes2OHおよびW-SiMe3結合が加メタノール分解されて生成したメトキシシランMeOSiMe3である。収率はいずれの錯体の場合も大きな差は無く,50~80%であった。 シラノン錯体と水との反応は速く,約5分で終了したが,生成物は錯体に依存して異なった。錯体1と水との反応では,シラノンにOHとSiMe3が取り込まれたジシロキサノールMe3SiOSiMe2OHが収率82%で生成した。一方,錯体2の反応では,ジシロキサノールに加えて,シラノンのSi=O結合に水のO-H結合が付加したシランジオールMes2Si(OH)2が,それぞれ収率7%および86%で生成した。このような大きな違いが現れる原因はまだ明らかではない。 シリル(シリレン)タングステン錯体に硫黄を作用させると,環状カルベン錯体が生成する。この反応の機構を,群馬大学工藤貴子教授との共同研究により理論的に検討し,中間体としてシランチオン錯体を経由することを明らかにした。
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