研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
25109510
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
斎藤 雅一 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (80291293)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プルンバシクロペンタジエニリデン / 二価鉛 / 反芳香族性 / 超原子価構造 / フルオロボロール / クロロガロール / 二電子還元 / ジリチオプルンボール |
研究概要 |
1.プルンバシクロペンタジエニリデンの合成、構造及び反芳香族性の解明 二価鉛上に二分子のTHFが配位したプルンバシクロペンタジエニリデンを合成し、その分子構造を明らかにした。相対論効果を含む理論計算を得意とする連携研究者と共同で理論計算を行ったところ、塩基フリーのプルンバシクロペンタジエニリデンが反芳香族性を有するのに対し、THFの配位は反芳香族性を低下させていることがわかった。また、THFの配位により、鉛は極めて珍しい4配位10電子の超原子価構造を有していることもわかった。 2.プルンバシクロペンタジエニリデンの反応性の検討 次にルイス酸の添加によるTHFの除去を試みた。三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体との反応では、予想外のトランスメタル化が進行し、フルオロボロールが生成した。また、三塩化ガリウムとの反応でもトランスメタル化が進行し、クロロガロールが生成した。いずれの化合物も極めて珍しい構造をもつ、基礎化学的に重要な化合物である。THFが配位したプルンバシクロペンタジエニリデンをベンゼン中で撹拌すると、鉛上に配位している二分子のTHFのうち一分子が外れ、その二価鉛が塩基フリーのプルンバシクロペンタジエニリデンに配位した二量体化合物が得られた。この化合物は溶液中で不安定で、単体鉛の発生を伴い、スピロプルンボールへと変化することもわかった。そこで、THFが配位したプルンバシクロペンタジエニリデンのヘキサン中での紫外・可視吸収スペクトルを測定したところ、THF中のそれとは異なり、かなり長波長に吸収を観測した。理論計算によるシミュレーションの結果より、ヘキサン中では塩基フリーのプルンバシクロペンタジエニリデンとTHF付加体が平衡状態にあることがわかった。 THFが配位したプルンバシクロペンタジエニリデンをリチウムで還元すると、二電子還元が進行し、ジリチオプルンボールが生じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二価鉛上に二分子のTHFが配位したプルンバシクロペンタジエニリデン及び塩基フリーのプルンバシクロペンタジエニリデンの反芳香族性を解明したことは当初目的としていた成果である。また、THFの配位により、鉛が極めて珍しい4配位10電子の超原子価構造を有していることは当初の予想通りの結果であった。当初目指していたルイス酸の添加によるTHFの除去には成功しなかったが、その反応を検討したところ、予想外のフルオロボロールとクロロガロールが生成した。いずれの化合物も極めて珍しい構造をもつ、基礎化学的に重要な化合物であることから、十分に意義深い成果を上げたといえる。 THFが配位したプルンバシクロペンタジエニリデンはヘキサン中で塩基フリーのプルンバシクロペンタジエニリデンと平衡状態にあることを明らかにした成果は、不安定な反芳香族化合物をマスクすることに成功したことを意味する基礎化学的に重要な成果であり、当該論文がChemistry A European Journal誌のback coverに選定された。さらに、一連の理論計算に関する論文はJournal of Computational Chemistry誌のback coverに選定された。 当初の目標通りに、THFが配位したプルンバシクロペンタジエニリデンの二電子還元によりジリチオプルンボールが生じることを明らかにした。 以上のように、一部分は当初の目標通りの成果を得られなかったが、一部は当初の予想とは異なる、しかし極めて意義深い成果を上げたので、総合的に判断して、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
THFが配位したプルンバシクロペンタジエニリデンがマスクされたプルンバシクロペンタジエニリデンとして機能することがわかったので、今後は塩基フリーの化学種を単離することには固執する必要なく、THFが配位したプルンバシクロペンタジエニリデンを用いてプルンバシクロペンタジエニリデンの固有の反応性を見いだすことができると考えている。従って、THFが配位したプルンバシクロペンタジエニリデンと様々な小分子との反応を検討する。また、THFが配位したプルンバシクロペンタジエニリデンとジリチオプルンボールが可逆な酸化・還元系を構築していることを明らかにするため、ジリチオプルンボールの酸化によるプルンバシクロペンタジエニリデンの合成を検討する。 さらに、このような反芳香族性を有する14族二価化学種の化学の発展を強力に推進するため、ケイ素の系に関しても同様な手法で研究する。
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