研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
25109514
|
研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
草間 博之 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (30242100)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | アシルシラン / 光異性化 / カルベン / イリド / 付加環化反応 |
研究概要 |
アシルシランは光励起を経てシロキシカルベン種へと異性化することが古くから知られているが、このカルベン生成を有機合成に利用した例は極めて限られている。とりわけ、シロキシカルベン種の求電子性を利用した反応開発はこれまで行われていない。本研究では、シロキシカルベンとピリジン、あるいはキノリンとのイリド形成を経由する含窒素複素環化合物の新規合成法の開拓を目的に検討を行った。 その結果、アシルシランとピリジンまたはキノリン、ならびにフマル酸ジメチルの混合物に室温で光照射を行うと三成分がカップリングした複素環化合物が立体選択的に得られることを見出した。この反応について、反応条件、基質一般性の検討を行ったところ、電子求引性基の置換したベンゾイルトリメチルシラン誘導体を用いた場合、目的の三環性化合物が得られ、特にメトキシカルボニル基やトリフルオロメチル基を有するベンゾイルトリメチルシランを用いたとき、高収率かつ単一の立体異性体として目的物を与えることを見出した。さらに、キノリン類に関する基質一般性について検討したところ、本反応には様々な置換様式のキノリン類が適用できることが分かった。 また、本反応の各段階の反応速度定数を求めることで本反応を効率よく行うために必要な要素を明確にすべく、反応性に違いの見られたベンゾイルシランと4-トリフルオロメチルベンゾイルシランを用いて、レーザーフラッシュフォトリシスにより発生させたピリジニウムイリドの挙動を過渡吸収スペクトルにより追跡した。その結果から、本反応はイリドとアルケンとの [3+2]付加環化が律速段階となること、また電子求引性基の置換したシロキシカルベンのほうがより安定、かつ生成しやすいことを明らかにした。 以上、本研究から得られた知見は、シロキシカルベンの求電子的性質を活かした反応開発研究をさらに展開する上で大変意義深いものと言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はアシル典型化学種の光化学を基盤として感応性化学種を発生させるとともに、これを利用した新規合成反応の開発を目的としている。25年度はアシルシラン類の光化学を利用した反応開発について主に検討を行ってきたが、これまでに報告のない環状骨格形成手法の開発に成功するなど、一定の成果を挙げることができたと考えている。また、アシルシランのみならず、アシルすず、アシルゲルマニウム、ジシリルケトンなどの合成と光反応性に関する検討にも着手しており、次年度も継続的に検討を行うことで、興味深い反応性を有する化学種の創製や合成反応への利用が実現できるものと期待される。 以上より、本研究課題は当初目的に照らして、おおむね順調に進展しているものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、アシルシランの光化学を基盤とする新規合成反応の開発について更に展開を図ることは元より、他のアシル典型元素種としてアシルすず、アシルゲルマニウム、ジシリルケトンなどの光反応性を利用した反応開発へと展開していく予定である。 また、遷移金属種を含む新たな感応性化学種の創製と反応についても検討を実施する計画であり、例えば、アシルシランの光異性化で生じるシロキシカルベン種と遷移金属種との反応等について精力的に検討を行っていく予定である。
|