アシルシランは中性条件下、室温で光励起をするだけで高反応性のシロキシカルベンを発生することが古くから知られていたが、このカルベン生成を有機合成に利用した例は極めて限られていた。前年度の検討では、シロキシカルベンの求電子性を利用した反応開発に取り組み、シロキシカルベンとピリジン、あるいはキノリンとのイリド形成、ならびにそのアルケンとの付加環化反応の開発に成功した。 本年度はこの反応の基質適用範囲を更に詳細に調べると共に、反応機構の詳細な検討を実施した。 その結果、ピリジニウムイリドを経由する反応では溶媒量のピリジンを必要とするのに対し、キノリニウムイリドでは少過剰のキノリンを用いるだけで効率良く反応することが明確となった。この理由を明らかにすべくレーザーフラッシュフォトリシスを用いてイリドの過渡吸収スペクトルの測定を行ったところ、キノリニウムイリドの寿命はピリジニウムイリドのそれよりも一桁程度長いことが明らかとなり、これが反応効率に大きく影響していることが明らかとなった。 またイリドを捕捉する親双極子としては、フマル酸誘導体が最適であり、アクリル酸誘導体では目的の反応が進行するものの、目的物の収率は大きく低下する結果となった。 これらの結果はシロキシカルベン種を利用したイリド形成を他の合成反応に展開する上で重要な知見であると言える。
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