研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
25109518
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
伊藤 繁和 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (00312538)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 触媒 / 合成化学 / 超分子化学 / キラリティ |
研究概要 |
本研究では、本来アキラルな低配位ホスフィンが錯体化することによってキラリティを示す対称性の構造に変化することを利用し、本来備わっている高いパイ受容性と共役拡張性を最大限活用できる状態におきながら「配位感応性キラリティ」を制御し、均一系不斉触媒活性をはじめとする機能性を開拓することを目的とする。本年度は、代表的な低廃ホスフィンであるDPCBのアキラルな平面構造が二つの金が配位することによって顕著にC2型にねじれる性質に着目し、触媒活性の向上とキラリティ制御について検討を行った。 1)DPCB配位子を有する金属錯体の触媒活性は、配位子に連結する置換基によって幅広く変化する。このことを踏まえ、DPCB-二核塩化金錯体の触媒活性に及ぼす置換基効果を検討し、高い触媒活性を示す誘導体を見出すことに成功し、触媒回転数(TON)が160程度まで向上した。また、通常の金触媒反応では銀塩の活性化効果が必須となるケースがかなり多いものの、今回の検討では銀塩の依存性はほとんど認められなかった。このことは、均一系金触媒の化学において重要と考えられる。 2)DPCB-二核塩化金錯体はC2型にねじれるが、このヘリシティを制御することを試みた。その結果、キラルな銀塩を添加すると、NMRにおいて単一のジアステレオマーに変換されることがわかり、片方のヘリカル構造に優先的に誘導されていることが示唆された。さらに、円二色性(CD)スペクトルを測定すると、DPCB配位子の吸収に由来するコットン効果が観測され、やはり前述の片方のヘリカル構造が優先的に生成している可能性を見出した。不斉分子変換反応では小さな不斉誘起しか発現していなかったが、DPCBヘリカル構造の容易な制御をうまく使えば大きな不斉誘起効果の発現が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、明確にアキラルな構造を有するDPCBがキラリティを示す対称構造に変化することに注目し、検討を進めた。銀フリー条件における触媒活性の向上が可能となったことは、現在でも反応機構に不明点が残る金触媒反応を理解する上で重要な知見を提供できたと考える。定性的にではあるが、キラルアニオンを用いてねじれたDPCB構造を片方のヘリシティへと誘導できる可能性がMMRとCD測定から見出されたことは、不斉触媒だけでなく、キラル構造のセンシング等にも応用可能であることを示す知見と言える。不斉誘起については現在までのところ低い光学純度しか得られておらず、他の低配位ホスフィンでのキラリティ制御についてはこれまでのところ特筆すべき点は得られていないが、ジホスフェンを活用する新規なP2配位子系の構築法を見出すことができ、今後の展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
1)二核金構造によってC2型にねじれたDPCBユニットがキラルなカウンターアニオンによって片方のヘリシティへと誘導される現象を詳細に検討する。たとえば、キラルアニオンの添加量に応じたCDスペクトルの変化を観測することによる歪みエネルギーの見積りを検討し、さらには単離と構造決定についても試みる。また、不斉分子変換反応への適用についても検討する。 2)新たな配位感応型キラリティを示す低配位ホスフィンの開発を行う。これまでの検討から、本来不安定なP=C構造を安定化するために導入している置換基の存在が触媒活性の向上には不利に働いている可能性が考えられるため、低配位リン原子上の立体混雑度を低減させた環境を構築する。このようにして開発した配位子のキラリティ制御を試みる。
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