本研究の目的は,高周期14族元素-遷移金属間結合の「感応性挙動(動的挙動)」を触媒機能として活用する新しい遷移金属触媒を開発すること,ならびにその特徴を活かした新規分子変換反応を開発することである。 平成26年から27年度は,従来の対称型PSiP-ピンサー型配位子に代わって,ゲルマニウムを中心に持つPGeP-ピンサー型パラジウム錯体の開発と利用,ならびに非対称PSiN-ピンサー型配位子を持つ錯体合成と反応探索を行った。 その結果,PGeP-ピンサー型配位子を持つパラジウム錯体を触媒とすることで,ギ酸塩を二酸化炭素源かつ還元剤とするアレンのヒドロカルボキシル化反応が進行することを見出した。本反応は,従来のPSiP-パラジウム錯体を用いる反応系と比較して,強力な金属還元剤(AlEt3)と過剰量の二酸化炭素(1 atm)を必要としないことから,合成化学的有用性が極めて高い,二酸化炭素固定化反応として有用である。 また,あるパラジウム錯体を触媒とすることで,アルキンの二重官能基化反応が進行することを見出した。条件検討ならびに反応機構解析を試みた結果,当初予期しなかったパラジウム中間体が観測されたことから,これを反応活性種として想定し,新たな配位子設計に基づく触媒構造の最適化を行った。その結果,反応機構を明らかにすることはできなかったものの,ある程度の一般性を持つアルキンの二重官能基化反応として確立することができた。 これらの結果は,高周期14族元素含有ピンサー型配位子という新たな配位子設計の有用性を示すものとして大きな意義を持つ。
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