感応性化学種の創製を目指して、カルボニル基の酸素原子をセレン原子に置き換えたセレノカルボニル基を有する新しい型の化合物の合成を行った。その中すでに単体セレン、アミン、トリクロロシランを用いることで、ホルムアミドからセレノホルムアミドを合成できることが明らかにしてきた。一方、環状エステルであるα - ピロン誘導体は多くの天然物や生理活性化合物に見られる骨格であるものの、そのセレノ化体の合成例はなく、その性質についても興味が持たれた。そこで様々なα - セレノピロンを合成しその特性を明らかにした。またセレノホルムアミドから極性が転換されたセレノカルバモイルリチウムを発生させ、報告例のないα -ヒドロキシセレノアミドやほとんど例のないα-オキソセレノアミドを合成し、その構造やNMRスペクトルの特徴を明らかにした。 まず、様々なα-ピロンのセレノ化反応を行った。無置換ピロンを用いた反応では対応する化合物の単離には至らなかった。一方で3あるいは5位に置換基の組込まれた誘導体では10 - 80%の単離収率で種々のα - セレノピロンの合成に成功した。反応性は置換基に依存していた。次に化合物の紫外可視吸収スペクトルをクロロホルム中で測定した。アルキル基を導入した誘導体では極大吸収波長は425 nm付近であまり変化がなかったのに対して、フェニル基を組込んだ場合には、481 nmと大きく長波長側にシフトしていた。 一方セレノホルムアミドとLDAとを-78 ℃で反応させ、2-アダマンタノンを加えた後-78 ℃から-40 ℃まで昇温させ、-40 ℃での反応時間に注目し検討した結果、α -ヒドロキシセレノアミドを収率62%で得た。このことは、-40 ℃でもセレノカルバモイルリチウムは安定に存在できるということを示唆していた。さらに、塩化ベンゾイルを親電子剤とすることでα - オキソセレノアミドも合成し、X線構造解析によって、構造を明らかにした。
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