タンパク質・酵素のユニークな機能発現機序を十分に理解し、人工酵素の創成へ展開するためには、タンパク質高次構造が生みだす「静的効果」と「動的効果」の二面性を考慮する必要がある。このうち、「動的効果」の検証としては、距離・配向両方に依存的な発光性感応プローブ分子を用い、機能発現時に大きな構造変化を示す酵素の素反応過程での構造の違いを検出できれば、酵素立体構造の変化と酵素触媒サイクルの素反応過程をリンクさせた反応機構が提唱できる。本年度は、基質・リガンド結合に伴う構造変化をトリガーとする機能スイッチングシステムの構築を行った。これは、タンパク質の構造的特徴のうち、「動的な効果」にフォーカスしたものである。ADPの結合に伴い大きな構造変化をおこすアデニル酸キナーゼのAla55およびVal169をCysに変換した変異体を作成し、このアミノ酸残基に、ピレン分子をコンジュゲートした。この化学修飾酵素は、酵素触媒サイクルに呼応した「モノマー蛍光/エキシマー蛍光のスイッチング」を実現できる機能性タンパク質となることが示された。また、この蛍光特性の変化は、酵素の立体構造変化に対する基質濃度依存性と一致しており、酵素が本来もつ機能発現のための構造変化を忠実に反映している。したがって、酵素触媒サイクルの素反応過程を可視化する有益な測定系として用いることができると考えられる。さらに、コンジュゲートする分子をフェナントリン銅錯体とすることにより、酵素の立体構造の変化による加水分解的DNA切断のスイッチングにも応用できることがわかった。
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