研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
25109530
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
的場 康幸 広島大学, 医歯薬保健学研究院(薬), 准教授 (90363051)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | チロシナーゼ / 銅 / 結晶構造解析 / ラマンスペクトル |
研究概要 |
チロシナーゼは、活性中心に2つの銅イオン(二核銅)を有する酸化酵素であり、チロシンを水酸化しドーパへと変換する反応と、ドーパを脱水素してドーパキノンへと変換する反応を触媒する。申請者は、チロシナーゼに特異的な銅輸送タンパク質(キャディーと命名)との複合体として、チロシナーゼの三次元構造を決定した。本構造中において、キャディーのTyr98残基が、チロシナーゼの基質結合部位に位置している。最近、キャディーのTyr98残基がチロシナーゼの触媒作用により翻訳後修飾を受け、ドーパキノンへと変換されうることを発見した。本研究ではチロシナーゼ・キャディー複合体を利用し、二核銅含有酵素チロシナーゼの反応機構の解明を目指す。 チロシナーゼが触媒する2つの反応のうち、モノオキシゲナーゼ反応は二核銅活性中心に分子状酸素が結合したオキシ型酵素が触媒する。今年度は、チロシン生合成遺伝子のひとつを欠損させたチロシン要求性大腸菌を作成し、チロシン残基の水酸基の酸素原子を18Oに置換したチロシナーゼ・キャディー複合体を調製した。通常のチロシナーゼ・キャディー複合体に加え、チロシン残基の水酸基を18Oに置換した複合体を用い、16O2もしくは18O2存在下でラマンスペクトルを測定した結果、チロシナーゼをオキシ型に変換すると、初期段階でμ-η2:η2-ペルオキソ二核銅(II)が形成し、最終的にドーパセミキノン・Cu(II)複合体が生じることが明らかになった。さらに、X線結晶構造解析を用いた検討からは、チロシナーゼ・キャディー複合体の結晶中でオキシ型チロシナーゼを形成させると、Tyr98残基のオルト位に濃い電子密度が観測され、結晶中でもチロシナーゼ反応が進行していることが強く示唆された。また、オルト位に濃い電子密度が生じるのに先立って、2つの銅イオンのうちCuAと名付けた銅イオンが、Tyr98残基の水酸基の方に移動することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラマンスペクトルを測定するために必要な、同位体置換した試料を調製でき、生成する分子種を捉えるための準備を整えることができた。また、X線結晶構造解析からは、チロシナーゼの反応機構において、CuAが移動することが重要であるという知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続きラマンおよびX線結晶構造解析を行い、短寿命の反応中間体を捉えることを目標とする。また、反応中間体の寿命を長くすることを検討する。具体的には、Tyr98残基に対するチロシナーゼの反応性を弱めることを目的として、本残基を、水酸基のオルト位にフッ素が結合したチロシン誘導体に置換することを目指す。チロシン要求性大腸菌にチロシナーゼ・キャディー複合体の発現プラスミドを導入し、フッ化チロシンを添加して培養すると、菌の発育が著しく阻害された。このため、無細胞タンパク質合成システムを用いる方法を検討する。さらに、ごく最近建設されたX線自由電子レーザー施設を利用することで、微結晶中における短寿命の中間体を捉えられる可能性がある。そこで、本施設の利用に先立ち、微結晶の作成や試薬の添加条件を検討する。
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