研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
25109533
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
金川 慎治 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (20516463)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 複合機能性分子 / 外場感応性 / 固体電子物性 / 錯体分子 / 光スイッチ |
研究概要 |
本研究は、電子スピンの化学を基盤に、「感応性化学種」を融合させることで、電子の織りなす電導性や誘電性といった様々な物性が外場に対して共同的に感応する革新的複合機能性錯体の創成を目的として掲げている。具体的には、スピン転移錯体といった外場感応性錯体分子と導電性分子とを複合化した新規ハイブリット分子材料を開発し、外場に感応性を持つ磁気・導電性物質の開発を行う。この目的を達成するため、本研究は1.新規スピン転移錯体の開発、2.スピン転移錯体と導電性分子の複合化、3.物性測定と構造―機能相関に関する知見の集積のそれぞれの段階で推進した。 段階1.に関してはONS三座キレート配位子を用いた鉄3価アニオン性錯体について検討を行った。その結果、これまでにほとんど報告例が無いアニオン性錯体の新規スピン転移錯体を開発することができた。 段階1.で合成したスピン転移錯体を用い導電性分子との複合化の検討(段階2.)も続いて実施した。電解結晶化法において、鉄錯体や導電性分子、結晶化溶媒等の検討を行うことで、数種のTTF系化合物との複合分子を固体として得ることができた。中でも導電性分子にBisi(ethylenedioxy)tetrathiafulvalene(BO)を用いた場合に良質の単結晶が得られた。その構造解析の結果、BOと鉄錯体の割合が5:2であり、BOは0.4+の部分酸化状態となっており、分離積層構造の結晶であることが明らかとなった。 この複合分子について物性測定(段階3.)を行ったところ、磁気測定では室温から低温まで鉄3価高スピンの磁気挙動が観測された。また段階3.の実施にあたり、研究室所有の磁気測定装置SQUIDを用いた電気伝導度測定装置を新規に作成した。この装置で測定を行ったところ、BO複合分子は測定温度範囲内(1.8~400 K)で金属的な電導を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度において種々の置換基をもつ鉄3価アニオン性スピン転移錯体の開発を行った。さらに、これらを用いた導電性分子との複合化にもいくつか成功しており、特に合成手法や物性測定の面において重要な知見を得た。これまでに得られた結果から、今後、より多くのスピン転移錯体―導電性分子複合体の合成が期待できるものと考えている。また、物性測定については、特に測定装置の作成を達成し、幅広い温度領域での測定と、光の測定装置内への導入が可能となったことから、この点についてもより早く研究を推進する礎を築くことができたといえる。 特に今回合成に成功し、結晶構造解析と物性測定を行ったBO-鉄錯体複合分子は、錯体分子を陰イオンに持ち、分離積層型で金属伝導を示すという非常にまれな化合物であることが現在までに明らかとなっている。この結果は、本研究の目的とする電子物性の外場スイッチングを達成するにあたって、非常に大きな一歩に成功したものといえる。一方で、現在得られている複合分子においては、鉄錯体におけるスピン転移挙動が消失していることや導電性において超伝導の発現には至っていない点が早急に解決すべき課題として残っている。しかしながら、この点については既に得られている錯体との組み合わせや、導電性分子を検討することで解決できるものと考えられる。 以上のようなスピン転移錯体を基にした複合分子の合成、物性評価手法は他の感応性化学種を用いた物質開発にも適用できるものと考えられ、技術・知見両面において本年度は大きな進展があったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に合成・物性測定に成功した複合分子で得られた知見を基にして、各種アニオン性スピン転移錯体と導電性分子との複合体の合成、評価を精力的に推進する。特にスピン転移挙動を複合体において発現させることを目指し、既に得られている配位子の異なる鉄錯体での検討からおこなうことを計画している。また、電気伝導挙動に関しては超伝導性の発現を目指し、既にいくつか知られている超伝導を示す導電分子を用いた複合化を行っていく。得られた複合分子については随時構造解析と磁気・導電性測定を行うとともに、光などの外場に対する応答性についても併せて評価していくことを予定している。 加えて、本研究課題が新学術領域課題であり、同領域内には有機分子、有機錯体分子等種種の分子において外場感応性の化学種を研究対象として取り扱っているという点を生かし、これらの感応性分子を用いた新規物性開拓を行っていきたいと考えている。特に、有機金属化合物分野においてはこれまでの磁性分野研究者が主に合成的な問題から取り扱うことができなかったような物質が数多く研究されている。今後は領域内研究者と合成と物性両面で情報交換を密にし、新奇な外場感応性電子物性を示す分子性材料開発を行うことを計画している。
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