研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
25109534
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
砂田 祐輔 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (70403988)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 鉄 / 配位不飽和 / 低配位 / 反応場 / 高反応性 |
研究概要 |
遷移金属錯体を触媒とする物質変換は現代科学において重要な方法論の一つである。従来はPd, Pt, Rh, Irなどの貴金属錯体を用いた研究が活発に行われているが、近年、次世代型の安価で低環境負荷な反応の実現に向けて、戦略元素である鉄による代替が強く望まれている。本研究課題では、高度に配位不飽和であり広い反応場を有する低配位鉄活性種を開発することを目的とした研究を実施している。さらに、この低配位鉄活性種は高い反応性を示すことが期待されるため、これを利用した有機変換反応の開発も併せて行っている。一連の研究において、錯体設計指針をより迅速かつ効果的に確立すべく、鉄と同族であり、NMR等の様々なスペクトルを用いた解析が容易であるルテニウム錯体についても注目し、低配位活性種の開発法の確立と鉄錯体合成への展開も併せて行っている。 本年度はまず、”Fe(CO)2”とみなせる低配位鉄活性種の系中での高効率的発生法を確立し、これを用いた多様なアルケンの触媒的水素化反応へと展開した。特に”Fe(CO)2”種は広い反応場を持つため、通常水素化が困難な4置換アルケンを含む多置換アルケンの水素化に対しても効果的に機能することを見出した。一般に鉄錯体はアルケンの水素化活性を示さないことが知られているが、本成果は、低配位の高反応性化学種の効果的な発生と利用により、これを達成したと見ることができる。また、対応するルテニウム錯体の合成手法の確立を、ルテニウムー炭素結合を有する前駆体を用いることで行い、”Ru(CO)2”種の発生や、その他の補助配位子を有する低配位活性種の発生法について予備的な知見を収集した。また、トリアザシクロノナン配位子を持つ配位不飽和16電子錯体を多種合成し、原子移動ラジカル重合反応への応用を行い、低触媒濃度でも高効率的に反応が進行し、かつ容易に回収・再使用も可能な、実用性の高い触媒系の開発にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究において、低配位鉄活性種である”Fe(CO)2”の効果的な発生法、ならびにこれを利用した特異な反応への展開についての方法論を確立することができた。さらに、ルテニウム錯体に関する研究において、より広範な錯体開発を可能とする適切な錯体前駆体を見出し、COのみならず多様な配位子を有する低配位ルテニウム活性種の構築法についても新たに見出した。この知見を応用することで、多様な構造・電子状態を有する一連の低配位鉄活性種の合成法の開発へと展開できることが期待される。このように、本研究課題の目的である広い反応場を有する低配位鉄活性種の開発とその特異な性質を活かした応用研究について、本年度の研究を通してその研究基盤がほぼ固まったことから、研究は概ね順調に進んでいると言うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られた成果を基に、まずは様々な補助配位子を持つルテニウム錯体の合成を確立し、この錯体を用いた低配位活性種”RuL2”の発生と、その特異な反応性の開発を行う。この際、本年度に実施したアルケンの水素化、特に多置換アルケンの水素化を反応プローブとし、最適な構造・電子状態を有する補助配位子の設計指針を確立するとともに、低配位活性種の発生法の確立とその特異な反応性の発現を達成する。併せて水素化以外の反応として、類似の反応機構で進行するヒドロシリル化を始めとする他の反応へと適用し、応用範囲を拡大する。その後、得られた知見を基に鉄錯体の設計と合成へと展開し、これらを利用した特異な反応の開発を行う。今年度に開発した”Fe(CO)2”を含む一連の鉄活性種の構造・電子状態と反応性の相関について精査し、最も高反応性を示す低配位鉄活性種の構築法を確立する。
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