研究領域 | 感応性化学種が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
25109542
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
櫻井 英博 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 准教授 (00262147)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | フラーレン・カーボナノチューブ / バッキーボウル / 多電子還元 / ラジカルアニオン / ビラジカル |
研究概要 |
不対電子を有する開殻性有機化合物は、、ポーラロンに代表される電子移動メカニズムなどの物理現象の解明やスピントロニクス材料、有機強磁性体開発の候補化合物として興味を持たれてきた。最近、3回対称構造を有する分子(集合体)に生じる3nカ所のスピンは、仮にn組のスピン同士で反強磁性相互作用が生じても必ず残りのスピンは残る、いわゆる「スピンフラストレーション」の状態となるため、開殻性物質デザインの手法として注目されている。本研究の対象とする分子は「スマネン」と呼ばれる3回対称性を有するお椀型共役炭化水素化合物であり、その構造の特徴として、非平面π共役構造を有していること、そして、3回対称に置換基を導入することが容易であること、特に周縁部に3カ所のベンジル位を有していることが挙げられる。そこで、非平面π共役構造上のスピン共役評価と、3回対称にスピンを導入した場合のスピンフラストレーションの観測を目的に研究を行った。 25年度ではスマネンのベンジル位を酸素化したスマネントリオンに焦点を当てた。その結果、スマネントリオンはC60よりも低い電位で多電子還元が進行し、最初の2電子までは可逆なレドックス過程を示した。1電子還元したラジカルアニオン種のスピンはお椀曲面全体に共役していることがESR観測で確認された。また近赤外領域に特徴的な極めて広い吸収帯を示し、これはSAC-CIを用いた計算による解析結果と良い一致を示した。一方、2電子還元体はESR不活性であり、シングレットビラジカルの寄与は小さいことが示唆され、この結果もまた計算による解析と良い一致を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スマネン誘導体のひとつであるスマネントリオンに関する詳細なレドックス過程の解析、およびラジカルアニオン種の観測に成功しており、本研究提案の際に目標とした最初のマイルストーンはクリアしたと考えている。またスマネントリオンが一般に有機分子の中では良好な電子受容性化合物と言われるフラーレンよりも更に低い電位で多電子の可逆な電子受容体になることは、今後の研究に大きなヒントとなることが期待され、次年度以後の研究に期待が持たれる。
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今後の研究の推進方策 |
25年度に行ったスマネントリオンの還元反応に関する研究は、スマネントリオンアニオンラジカルの特異な近赤外領域での吸収帯や、フラーレンを凌駕する良好な可逆な電子受容特性など、様々な興味深い現象の観測に繋がった。引き続き26年度も関連研究を進めていく予定である。 一方で、スピンフラストレーションに関連するトリラジカル種に関しては、スマネントリオンの3電子還元体は不安定で取り扱いが難しいこともわかった。したがって、当初の最終目標であったスピンフラストレーションの観測に関しては、別な化学種を用いて検討を行う必要がある。そこで、26年度からは、新たにスマネンの芳香環上にニトロニルニトロシド基などの安定ラジカル種を導入した化合物群についての検討を開始する予定である。
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