公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本研究は安定で単離可能な新奇な結合様式を持つ感応性化学種について、光機能物性や光誘起反応で重要となる最低励起状態近傍の電子励起状態のエネルギー構造を禁制遷移状態(いわゆるダークステート) も含めて明らかにすることを目的とする。このため本年度は、揺らぎ易い結合を持つ一重項ジラジカロイド(中間ジラジカル性)化合物など新しい結合様式を持つ種々の化合物について、二光子吸収スペクトル測定を行ってダークステートのエネルギー準位構造を調べると共に、二光子吸収の強度との関係を明らかにすることに取り組んだ。測定に用いる感応性化学種は当新学術領域内の共同研究により合成されたものを用いた。まずモデル系の量子化学計算結果より中間ジラジカル性が期待される高周期典型元素置換パラキノジノジメタン化合物についてその二光子吸収測定を行ったが、検出が期待される波長域で二光子吸収は非常に弱く、測定限界以下であった。また、ジラジカル型の共鳴電子構造が書けるジホスファシクロブタンについても検討を行ったが、二光子吸収が950nm付近に観測されたものの、分子あたりの二光子吸収の強さを示す断面積は5 GM以下と低い値であった。これらの系は2個のラジカル中心間の距離があまり離れておらず、これらの結果は開殻性と共に2つのラジカル中心の間のπ電子系の広がりが重要な因子であることを示唆している。一方、リン-アザポルフィリンは波長1400nmの近赤外域で断面積1500 GMを越す強い二光子吸収特性を示した。この波長域(1400~1500 nm)で1000 GMを越す強い二光子吸収を示す化合物はあまり報告されておらず、興味深い結果であるため、今後より詳細に検討を行う。
2: おおむね順調に進展している
高周期典型元素置換パラキノジノジメタンやジホスファシクロブタンなど興味深い新奇な結合様式を持つ感応性化学種の評価を行い、2つのラジカル中心の間のπ電子系の広がりが重要な因子であることを示唆する結果を得られた他、リン-アザポルフィリンの近赤外域での強い二光子吸収特性を見いだしており、おおむね順調に成果が得られている。
班内・班間の共同研究をさらに積極的に推進して、電子構造に中間開殻性が予測される種々の感応性化学種の二光子吸収特性の評価とそのダークステートまで含めた電子励起状態の解明を行う。特に、強い二光子吸収を示す予備的な結果が得られたアザポルフィリン系やπ共役の長さを系統的に変えた化合物系について、二光子吸収スペクトルの測定をさらに進め、それらの電子励起準位の構造を明らかにする。さらに、これらの研究で得られた様々な感応生化学種の電子状態についての結果を取りまとめ、学会発表を行っていく。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件)
Journal of the American Chemical Society
巻: 135 ページ: 232-241
10.1021/ja308396a