研究概要 |
これまで我々は、表面増強ラマン散乱 (SERS) をプローブとして分子の光励起プロセスの検討を行ってきた。これにより分子の電子系と局在プラズモンの分極方位が特定の位置関係にある際に、高度に局在した空間異方的な電子分極が誘起されることを実験的に明らかとしている。本研究においては、ギャップ幅数nm以下のAuナノダイマー構造にSWNTを担持し、その近赤外ラマン応答(785 nm(1.58 eV)励起)について検討した。直径0.61nm (カイラル数(5, 4))から直径 1.70 nm (19, 4)までの単一の金属・半導体SWNTがそれぞれの観測サイトにて明瞭に観測された。ラマンスペクトルにはG-bandのA, E1, E2モードが明瞭に分離して観測され、ギャップ部における異方電場に対するSWNTの長軸方位の角度を正確に見積もることが可能となった。SWNT長軸と並行な分極時にはE11もしくはE22遷移が、SWNT長軸に対し垂直な分極時にはE12遷移が誘起されることが明らかとなった。さらにこの垂直分極時において、近赤外励起では本来観測されない直径1.5 nm程度の半導体SWNTが観測された。これは禁制E14遷移が誘起されたこと示しており、局在光励起における光学選択則変調の初めての実験的観測例である可能性がある。
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