本年度は,(1)プラズモンの動的挙動を明らかにすること,(2)プラズモニック物質がメタマテリアルの機能にどのように影響を及ぼすか,(3)他の量子系との相互作用により新たにどうような効果をもたらすかを検討することを目標とした。研究開始から二ヶ月で研究を終了することになったため,研究廃止までに得られた成果について以下に述べる。 (1)プラズモニック物質の動的挙動は,時間分解近接場光学顕微を用いて評価した。評価には,金からの二光子発光を用いフリンジ分解時間相関波形の相関幅からプラズモンの位相緩和時間を決定した。精度良く相関幅を決定するよう装置を改良し,凹凸金薄膜において励起されるプラズモンの位相緩和時間を測定した。薄膜の突起部と平坦部で位相緩和現象を評価した結果,それぞれで位相関係が逆転することが明らかとなった。 (2)プラズモン間の相互作用が顕著に観測される試料として,井型構造を基礎とするメッシュ状のナノ構造体を作製し,その光学特性およびプラズモンの空間特性の評価を行った。構造により,金属部だけでなくナノ構造体のヴォイド部分においても光電場の増強効果が誘起されることを明らかにした。また,メタマテリアルの構造の設計指針となるバビネの原理について,可視域での検証を行った。 検証には,金薄膜上の長方形開口とその相補構造である金ナノロッドを用いた。近接場光学顕微鏡による透過測定および電磁気学シミュレーションを用いて検証した結果,可視域ではバビネの原理が成立しないことが明らかとなった。 (3)量子系とプラズモンの相互作用を調べるために試料調製を進めた。これまでに金ナノ粒子と色素分子が混在した試料やロッドと量子ドットが結合した試料を調製し,それらの吸収特性と蛍光特性を分光装置(設備備品)を用いて評価した。粒子近傍の環境を制御することで,蛍光強度が増大することを見いだした。
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