研究領域 | 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態に関する学際的研究 |
研究課題/領域番号 |
25110504
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
吉村 千洋 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (10402091)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 福島原発 / 放射性セシウム / 阿武隈川 / 化学形態 / 生物利用性 |
研究概要 |
本研究では、水環境中における放射性セシウム(137-Cs)動態のなかでも、セシウムイオンと土粒子の吸着現象や微細藻類によるセシウムの利用性を調べることで、化学反応モデルを開発する。H25年度における研究では、まず、阿武隈川流域において137-Csと水中浮遊砂の化学的特性を調べた(課題3)。その結果、Cs濃度は浮遊砂特性の中でも有機量と高い相関があることが明らかとなった。しかし、Csは有機物と配位結合することはなく、また過酸化水素により有機物分を除去した場合においてもCsが土粒子に残存していたことから、Csは無機分画に吸着していると考えられた。一方、XRDによる結晶構造解析から、Csと高い吸着性を示す雲母系等の結晶性鉱物とCs量に相関は見られなかった。そこで、既往の文献を調査したところ、火山性土壌において有機物含有量と非結晶性土粒子に正の相関があることがわかり、Csは非結晶性粒子に吸着している可能性があることが予想された。H26年度における研究では、資料調査と分析を継続し、Csと非結晶性粒子との吸着可能性について調べて行く予定である。 また、生物利用性に関する研究(課題2)では、アオコ藻類(ミクロキスティス)による137-Csの摂取動態について調べた。様々な培養条件において137-Cs摂取速度を測定した結果、カリウムイオンがCs摂取と競合することが分かった。一方で、アンモニウムイオンは影響がなかった。阿武隈川流域での137-Cs濃度や他の水質条件を考慮して、藻類細胞中への137Cs摂取量を推算した結果、アオコが発生している状況において粒状態Csに占める藻類細胞中Csの割合が高い可能性が示された。H26年度の研究では、アオコ藻類のみならず、珪藻や緑藻など他の藻類種についても137-Cs試験を行っていくとともに、流域で採取された藻類についても137Cs摂取試験を実施し、Cs摂取モデルを開発する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H2年度の研究は、おおむね順調に進展したと評価する。本研究は、阿武隈川流域を対象として、水・底泥環境中でのCsの化学動態と生物利用性を調べ、生物利用性モデルを提案する。H25年度の研究では、課題1~3を対象に研究を進めた。課題1では速度論的手法を用いてCsの化学形態に関する反応モデルを作成する、課題2では微細藻類を用いたバイオアッセイによりCsの生物利用機構や摂取経路を明らかにする、また、課題3では土粒子と吸着態Csの化学構造分析等を通して、土粒子の性質がCs吸着を含めた化学動態に及ぼす影響を評価することを目的とする。このうち、課題2と3においては、「9.研究実績の概要」でも示したが、アオコ藻類によるCs摂取試験(課題2)や、浮遊砂の性質がCs濃度に及ぼす影響を調べた阿武隈川調査(課題3)が計画通りに進んだと評価できる。一方で、課題1におけるCsの反応モデル構築については、安定Csを用いた土粒子・鉱物への吸着試験を実施した。そして、鉱物の化学的特性(例えばカリウム含有量)とCs吸着量に相関を見出した。しかしながら、安定Csを使用した本実験は、放射性Csの実験より高濃度で行わなければならず、実験条件が非常に限られたものであると判断された。以上より、課題2と3については順調に進展しているが、課題1について、今後は、放射性Csを用いた実験系を計画する必要性がある。
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今後の研究の推進方策 |
「11.現在までの達成度」において記述したように、課題2と3については順調に進展していると評価している。従って、今後の研究においては、これまでの研究通り、分析・実験をとり行う。一方で、課題1については、放射性Csを用いた実験系を構築する必要があり、H26年度における対応すべき課題の一つとなる。放射性Csを用いた実験系は、筑波大学アイソトープセンターが利用可能であり、本施設の利用を検討する。
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