研究領域 | 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態に関する学際的研究 |
研究課題/領域番号 |
25110508
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
内山 雄介 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80344315)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 海洋モデリング / 土砂輸送 / 環境影響評価 / 放射性核種移行過程 |
研究概要 |
初年度は,科研費基盤Cの枠組みで H24年度までに開発済みの福島沖137Cs広域分散解析システム(水平解像度1km)をさらにdownscaleし,砕波帯を解像し得る浅海域3次元モデルを構築した.このモデルは,JCOPE2(Miyazawa et al., 2009)を最外側境界条件・初期条件とし,水平解像度を250 mまで詳細化した領域海洋モデルROMSを用いた3段階のネスティング海洋モデルをコアとし,Tsumune et al.(2012)によるセシウム流出モデル,Blaas et al.(2007)をベースとした波-流れ共存場に適用可能な多粒径土砂輸送モデル,領域スペクトル波浪推算モデル,電中研流出モデルHYDREEMS(豊田ら,2009)による河川流出量推算値,武川ら(2013)による河川流量と排出土砂量の経験式を統合したシステムとなっている.本年度は (a) スペクトル波浪モデルSWAN(Booij et al., 1999)による福島沿岸波浪モデリングを行い,(b) 本システムによって河道~河口~浅海域を一体的に解析し得る福島沿岸土砂輸送モデリングを行った.波浪モデルの境界条件には気象庁GPV-CWM波浪推算値およびGPV-MSM気象再解析値を用いた.解析対象河川としては,H25年秋にISET-R海洋班,海洋生物班,河川班合同で実施した河川-海域移行過程に関する現地調査地点である二級河川新田川を中心に,真野川などの河口域を含む福島北部海岸を選んだ.浅海域では堆積域と侵食域が沿岸方向に半周期的に出現し,新田川河口は侵食域であること,また,沖合海域では波浪と底層流れの影響の双方が極小となる領域が形成され,そこでは土砂,特に粘土成分が堆積する傾向にあって,しかも観測による底質中のセシウム濃度が高い領域(小埜ら,2013)と対応することなどを見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度は当初の計画を十分に達成しており,スペクトル波浪モデリング,高解像度領域海洋モデリング,河口域ダウンスケーリング,土砂輸送モデル開発,詳細な河川流量データの取得およびそれを用いた河口-海域間土砂フラックス推定法の確立,および福島沿岸域,新田川・阿武隈川河口域における再解析の実施を行った.モデルの結果から,底質中セシウム濃度の空間分布と土砂輸送パターンに相関がみられ,本モデルが放射性核種の河口-海域移行過程および沿岸域での再分散過程の推定に対して強力なツールとなることが示された.また,ISET-Rの枠組みで海洋班,海洋生物班,河川班による合同現地調査に参加し,観測データの解釈についてモデルを用いて補助的な知見を与えられそうであるという感触を得ているほか,ISET-R参加者との情報やデータ交換により本研究の進捗速度は当初予定よりも加速されていると感じている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度も当初研究計画通りに研究を進めていくことにより,モデルの更なる発展が期待され,波による平均流や乱流場への影響およびそれらが土砂輸送に及ぼす影響がより精緻に再現されるようになる.モデリングとしては解像度の高さや流れの非定常性の強さ,あるいは静水圧近似の限界などに伴う技術的な困難さが予想されるが,科研費基盤Cで遂行中の波-流れ相互作用に関するモデリングの知見を直接応用することにより,十分に達成可能であるという感触を持っている.
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