研究領域 | 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態に関する学際的研究 |
研究課題/領域番号 |
25110511
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研究機関 | 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター |
研究代表者 |
猪股 弥生 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, その他部局等, 研究員 (90469792)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 人工放射能 / 最適内挿 / 航空機サーベイ / 海洋放射能汚染 |
研究概要 |
2011年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所の事故の際に漏洩した、人工放射性核種による海洋汚染の実態を把握することは、人体の体内被曝の観点から、緊急の課題である。本研究では、データ同化の一手法である最適内挿法(Optimum Interpolation;OI)を用いて、離散的に分布している観測データを格子値(緯度・経度・水深・時間)に再解析し、海水中の人工放射性核種の濃度分布を明らかにする。さらに、海水における人工放射性核種の収支を見積もることで、海洋汚染の実態把握を行う。 平成25年度は、アメリカエネルギー省によって実施された唯一の海洋上空の航空機サーベイ結果(2011年4月18日)をもとに、福島沿岸域における人工放射性核種の濃度分布を明らかにした。観測日には、福島第一原子力発電所(FNPP1)から30km圏内の南―南東方向に、高濃度の131I, 134Cs, 137Csが分布していた。高濃度域の濃度は、131Iで200-300 Bq/L, 134Cs,137Cs濃度で500-600Bq/Lであった。131I/137Cs比から、高濃度域の放射性核種は、原子力発電所からの直接漏洩によるものと推定された。さらに、観測領域には、直接漏洩量(3.4PBq)の1/3以上の人工放射性核種が存在していた。 北太平洋全域(>東経141.5度)についても最適内挿解析を行い、有効半径などの最適パラメータを決定し、134Cs, 137Csの濃度分布やインベントリを推定した。2011年4月の日本付近の北太平洋の134Cs, 137Csの高濃度域分布や、北太平洋中央部への輸送などが明らかになった。さらに、大規模漏洩がほぼ終了した2011年4月11日の時点における137Csインベントリは10.6PBq以上であると算出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、OI法を用いて、福島沿岸域や北太平洋における人工放射性核種(137Cs,134Cs,131I,131I/137Cs)の濃度分布や収支を見積もり、海洋汚染の実態を明らかにする。OI解析には、HAMデータベース(Aoyama and Hirose, 2003 and update version)に収録されている福島事故関連データを使用する。電力中央研究所で開発された領域海洋モデル及び海洋大循環モデル(坪野ら2010、津旨ら2011、Tsumune et al. 2012)による解析結果と組み合わせることにより、観測の空白域における人工放射性核種の濃度分布や輸送についても明らかにする。 H25年度の達成度としては、データベースからOI解析用データセットを作成し、北太平洋(>東経141.5度)におけるOI解析を行い、137Cs・134Cs濃度分布やインベントリを明らかにしたことである。また、解析結果から、大量の直接漏洩が終了した直後である4月11日の137Csの北太平洋東経141.5度以東のインベントリは10.8PBq以上であることが算出された。 福島第一原子力発電所付近についての達成度としては、アメリカエネルギー省によって実施された唯一の海洋上空の航空機サーベイ結果(2011年4月18日)をもとに、福島沿岸域における人工放射性核種の濃度分布を明らかにしたことである。解析結果から、福島第一原子力発電所(FNPP1)から30km圏内の南―南東方向に、高濃度の131I, 134Cs, 137Csが分布していた。131I/137Cs比から、高濃度域の放射性核種は、原子力発電所からの直接漏洩によるものと推定された。さらに、観測領域には、直接漏洩量の1/3以上の人工放射性核種が存在していた。なお、福島沿岸域における海洋放射能分布については、この解析で初めて明らかになった。また、航空機サーベイが、海洋表層における人工放射性核種の分布を明らかにするために有効であることを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、放射能データベースに収録されている放射能濃度データを用いて、134Cs,137Csの最適内挿に必要な有効半径などのパラメータの選定を行い、2011-2012年3月までの、北太平洋における放射能の濃度の分布を調べた。また、福島沿岸域については、航空機観測によって観測された空間線量率データをもとに、海洋への直接漏洩直後の海洋放射能濃度の分布を明らかにした。平成26年度は、前年度の結果を踏まえて、福島沿岸域(北緯35-40度、東経145度以西)について最適内挿法を行い、沿岸域における放射能の濃度分布やその変動を明らかにする。福島第一原子力発電所からの漏洩は“点”源であること、沿岸域では北向き或いは南向きの沿岸に沿った流れが卓越しているため、海洋へ直接漏洩した人工放射性核種の輸送は沿岸流に支配されていること等を考慮すると、データ領域は単純な円ではなく、Rを指数関数の軸で表す必要がある。有効半径などのパラメータの最適値を選定し、決定したOIパラメータを基に、(i)海水中の137Cs, 134Csの分布、(ii) 海洋への直接漏洩の収支を推定する。また、 領域海洋モデルとの比較から3次元モデルシミュレーション(電力中央研究所開発モデル)の検証を行う。観測データがないために、OI解析が不可能な領域については、3次元モデルシミュレーションを用いて、海洋モデルを使用した観測の空白域における放射性核種濃度の分布を明らかにする。これらの、解析結果を基に、収支の推定、海洋への直接漏洩量と大気からの沈着量推定の精緻化、福島沿岸域から太平洋への輸送速度の評価などを行い、最終的に、福島原子力発電所による人工放射性核種の海洋汚染の実態解明をまとめる。
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