公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
ATR-X 症候群はX 染色体上の原因遺伝子 ATRX の変異により X連鎖劣性遺伝形式をとる精神遅滞症候群である。私達は、ATR-X症候群モデルマウスの Atrx exon 2 欠損マウス (Atrxマウス) において認知機能の低下、海馬 LTP の減弱、前頭皮質内側部の樹状突起スパイン形態異常を呈することを明らかにしてきた。しかしながら、なぜ核内で機能するクロマチンリモデリング因子 ATRX の減少が、スパイン形態異常や精神遅滞を引き起こすのか不明である。 ATRX 変異による精神遅滞の原因を追究するため、Atrxマウスにおいて DNA マイクロアレイを行った。スクリーニングの結果、インプリント遺伝子のひとつが脳特異的に上昇していることを見出した。この分子はプロモーター領域には ATRX タンパク質が特異的に結合するグアニン 4 重鎖 (G4) 構造が存在し、ルシフェラーゼアッセイの結果このインプリント遺伝子の発現は ATRX タンパク質によって直接的に調節されていることが明らかとなった。さらに、このインプリント遺伝子のプロモーター領域の CpG island がAtrxマウスにおいて有意に脱メチル化していた。また、培養神経細胞にこのインプリント遺伝子を過剰発現させることで、Atrxマウスで見られるような樹状突起スパイン形態異常が観察された。これらのことから、Atrxマウスで認められる脳内の樹状突起スパイン形態異常の一因として、このインプリント遺伝子の異常な発現上昇が関与することが明らかとなった。今後、ATR-X 症候群由来 iPS 細胞を用いてより詳細な病態解明を行う。
1: 当初の計画以上に進展している
ATRX 変異による精神遅滞の原因を追究するため、Atrxマウスにおいて DNA マイクロアレイを行った結果、スパイン形態異常に関与する分子を見出すことができたことは大きな進展である。この分子のプロモーターには文献的に明らかとなっている ATRX タンパク質が特異的に結合する G4 構造が存在し、ATRX タンパク質によって直接的に発現調節されていることも明らかとなった。さらに、プロモーター領域の脱メチル化も確認できた。また、ATR-X 症候群由来 iPS 細胞についても神経細胞への分化が成功しており今後の詳細な病態解明につながると思われる。
今後、ATR-X 症候群由来 iPS 細胞の神経細胞を網羅的に解析し、詳細な病態解明を行う。また、Atrxマウスと ATR-X症候群由来 iPS 細胞における G4 構造結合性テロメラーゼ阻害薬の治療効果の検討を行う。G4 構造に結合することが知られているテロメラーゼ阻害薬:ポルフィリン化合物 TMPyP4 による インプリント遺伝子発現抑制効果をレポーターアッセイにより検討する。AtrxマウスにおけるTMPyP4 の認知機能改善効果を行動薬理学的に解析する。また、Atrxマウス由来初代培養神経細胞と ATR-X 症候群由来 iPS 細胞の神経細胞に対して、TMPyP4 投与により樹状突起スパイン形態異常改善効果が見られるか検討する。
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