研究実績の概要 |
ATR-X症候群は、ATRX遺伝子の変異により発症するX連鎖精神遅滞症候群の一つであり、 エピジェネティクスの破綻により多臓器にわたる多彩な症状を呈する。現在までに日本国内で約80症例が診断されている希少疾患である。2010年、ATR-X症候群の病態として、ゲノム上の特別な構造(グアニン4重鎖構造:G4 構造)にATRXタンパクが結合・安定化させ、近傍の遺伝子発現に影響を与えることが明らかにされた.よって、患者においては、G4 構造に結合し安定化させる薬剤が治療薬の候補となることが期待される。前年度までに G4 構造安定化作用を有するポルフィリン化合物 TMPyP4 がモデルマウス(Atrx マウス)に行動薬理学的に有意な認知機能改善効果をもたらしたことが確認された.さらに本年度は、生体内に存在するアミノ酸であり、また、診断薬や健康食品としても使用されている5-アミノレブリン酸(ALA)を生体内でポルフィリンを産生させるプロドラッグとして使用し、ATR-X 症候群の症状改善を目指し、Atrx マウスと 患者由来 iPS 細胞を用いてその有効性と安全性を検討した。 Y-maze test, Novel object recognition test, passive avoidance testを用いてAtrx マウスの学習行動解析を行ったところ、ALA(3,10mg/kg)の慢性投与においていずれの用量においても有意な認知機能改善効果が認められた。 Neuro2A細胞においてG4構造の免疫染色性が核内で確認された。また、その染色性はALA(10mM)処置により低下した。TMPyP4(10μM)とATRX helicase domain 発現細胞でも同様の染色性低下が確認された。これらの結果より、Atrx マウスを用いてALAが認知機能改善効果を示すこと、マウス神経芽細胞種Neuro2Aを用いてALAが細胞核内G4構造に結合することを明らかとした。また、ATRX蛋白質はHelicase domainを介してG4構造に結合することが明らかとなった。
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