メチル化DNA結合タンパク質MeCP2は重篤なニューロン機能障害を示すRett症候群(RTT)の原因遺伝子産物である。しかしながら、MeCP2の機能不全によりRTTのようなニューロン機能障害が引き起こされる分子メカニズムについてはほとんど明らかになっていない。そこで我々は、MeCP2の新規機能同定を目的として、神経系の主要細胞種(神経幹細胞、ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト)におけるMeCP2相互作用因子のプロテオミクスによる網羅的探索を行った。興味深いことに、各細胞種特異的および共通のMeCP2相互作用因子として多くのRNAプロセシングに関与するRNA結合タンパク質が同定された。この結果はMeCP2がRNA結合タンパク質を介して転写後の遺伝子機能発現を制御し得ることを示唆した。そこで、これらRNAプロセシング関連タンパクの中でも特にmiRNAのプロセシングに関与するものに着目してさらに解析した結果、MeCP2が特異的なpri-miRNAからpre-miRNAへのプロセシングに重要な役割を果たすことを明らかにした。ところでMeCP2欠損ニューロンでは、興奮性シナプス伝達の異常や細胞体収縮などの表現型が観察される。しかし我々は、このMeCP2標的miRNAを発現させるとこれらの表現型が改善されることを見出した。さらにこのMeCP2標的miRNAの機能を相補的オリゴヌクレオチドの導入により阻害すると、MeCP2欠損ニューロンの表現型が再現されることが分かった。これらの結果は、このMeCP2標的miRNAがMeCP2の下流で機能していること、また、MeCP2欠損によるRTT病態発症において重要な役割を果たす可能性を示している。
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