研究概要 |
神経変性疾患の病態解明と遺伝子治療法の開発を目的として研究を実施した. 独自に新規開発した血管内投与により広範な中枢神経領域の神経細胞に効率よく遺伝子を導入できるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを応用した. このベクターはマウス・ラットだけでなくカニクイサル・ブタなど大型動物の脊髄前角神経細胞にも遺伝子導入できる. 認知症を呈する前頭側頭葉変性症(FTLD)において神経細胞内のユビキチン陽性封入体の成分として同定され, その後, 家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)で遺伝子変異が見いだされたTDP-43は, 神経変性疾患の病態解明の鍵となる分子として注目されている. 本研究では, TDP-43を発現する血管内投与型AAVベクターを応用してモデル動物を作製した. 変異型TDP-43を脳・脊髄の神経細胞で発現させたマウスでは運動機能の障害が認められた. また, 神経変性疾患に対する新規遺伝子治療としてAlzheimer病モデルマウスの脳内の広範な領域でAβ分解酵素のNeprilysin を発現させることにより認知機能の改善効果を得た. 球脊髄性筋萎縮症(SBMA)の病態に関連したmiR-196aをSBMAモデルマウスの筋肉内に投与することにより, 脊髄の異常アンドロゲン受容体(AR)蛋白の発現を減少させ症状の改善が得られた.ALSのモデルマウスでは, 脊髄運動神経細胞でRNA編集酵素のADAR2を発現させることにより症状の進行を抑制した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規開発した血管内投与型のアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを応用した. このAAVベクターにTDP-43遺伝子を搭載し, 成体マウスの血管内に投与した. このマウスでは運動機能の障害が認められ, 脳の組織解析で導入したTDP-43の遺伝子発現を確認した.球脊髄性筋萎縮症(SBMA)のモデルマウスの脊髄運動神経細胞にmiR-196aを送達し異常アンドロゲン受容体(AR)蛋白の減少と症状の改善を得た(名古屋大学との共同研究). Alzheimer病モデルマウスの脳内の広範な領域でAβ分解酵素のNeprilysin を発現させ認知機能の改善効果を得た(長崎大学・理化学研究所との共同研究). さらに, ALSのモデルマウスの脊髄運動神経細胞でRNA編集酵素のADAR2を発現させて症状の進行を抑制した(東京大学との共同研究).
|