公募研究
胸腺はT細胞の産生と自己寛容の確立を司る中枢免疫器官であり、生後早期に退縮するというユニークな性質を有する。特に末梢組織特異的自己抗原に対する中枢性自己寛容の成立に必須の髄質上皮細胞はより早期にその数が減少することから、加齢に伴う炎症性素因の増大や自己免疫疾患発症率の増加に関わる可能性が示唆されている。また髄質上皮細胞の異常は全身性自己免疫疾患モデルにおいても認められることから、その発症や病態にも関与する可能性も指摘されている。本研究では申請者が携わってきた髄質上皮を生涯維持可能な前駆細胞分画に着目し、この分画に含まれると想定される幹細胞の存在を証明するとともに、加齢や胸腺退縮の過程で幹細胞の活性がどのように変化するのか、自己免疫疾患モデルマウスにおいて髄質上皮細胞および幹細胞に認められる異常の詳細を検討することによって、胸腺髄質の機能異常と免疫老化、および自己免疫疾患発症との関連を包括的に理解することを目指す。本年度は、1)髄質上皮細胞の産生を長期間維持可能な胎生期クローディン(Cldn)陽性胸腺上皮前駆細胞分画のうちSSEA1陽性の細胞群に、長期再構成能が濃縮すること、2)このCldn+SSEA1+の細胞はin vitroにおいて高いコロニー形成能を持ち、かつ継代可能である、即ち自己複製能を有すること、3)コロニー形成能は生後すぐ顕著に低下すること、を明らかにした。これらの結果から、胎生期Cldn+SSEA1+に胸腺髄質上皮幹細胞が存在すること、幹細胞の活性は加齢に伴い低下することが明らかになった。以上の結果を、論文として報告した(Immunity 2014 Sekai et al.)。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、中枢性自己寛容の成立を担う髄質上皮細胞の加齢に伴う早期減少や、自己免疫疾患モデルで認められる髄質上皮細胞の多様な異常が、免疫老化や自己免疫疾患の発症や病態にどの程度、またどのように関与しるかを明らかにすることを目指すものである。今年度は、本目的の根幹となる、髄質上皮幹細胞の同定を行うことが出来た。また、幹細胞の活性や異常を評価するin vitroコロニーアッセイシステムの確立、SLEモデルマウスに認められる胸腺髄質異常の原因について遺伝学的解析を行うことができ、おおむね順調に進んでいると考えている。
これまでの成果を受けて、今後主に以下の3点に研究の焦点をおいて推進する予定である。1.加齢に伴い胸腺髄質上皮幹細胞の活性が低下するメカニズムの解明:生後直後にコロニー形成能が低下する原因について、Cldn+SSEA1+分画に認められる遺伝子変化を検討するなどして明らかにする。2.SLEモデルで認められる髄質上皮細胞の異常を遺伝子レベルで同定する:現在HE染色にて観察されているSLEモデルマウスの胸腺髄質上皮細胞の分化異常をより詳細に解析するために、髄質上皮細胞をFACSにて純化し、その遺伝子発現を正常マウスと比較する。これにより、異常の原因とその意義を明らかにする。3. 髄質上皮細胞の異常を制御する方法論の開発:1,2の結果を基に、胸腺髄質上皮細胞の加齢による減少や、自己免疫疾患に先行する分化異常を制御する方法の開発に取り組む。これにより、免疫老化に関連する現象の一端や自己免疫疾患の発症や病態がコントロール可能であるかを検証する。これらは、T細胞の中枢性自己寛容と末梢の免疫システムの恒常性維持との関連を理解し、それを制御するために必須の課題であり、期間内での解明をめざして研究を推進する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 7件)
Sci Rep.
巻: 23 ページ: 7978.
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