研究領域 | 免疫四次元空間ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
25111506
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 敬一朗 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90391995)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / IgA |
研究実績の概要 |
腸内細菌によるIgE産生制御を観察する目的で、食餌抗原である卵白アルブミン(OVA)を認識するOTII T細胞の移入後にOVA含有水を投与するモデルマウスを作製した。この移入マウスでは、腸内細菌の表面にOVAと腸管IgAの免疫複合体が結合していた。これは、分泌IgAが腸内細菌の表面に非特異的に結合している事を示唆している。研究開始時にこの現象は予想し得ず、先行研究からもその役割は不明であったが、IgE産生を含む宿主免疫反応に重大な影響を与える可能性が考えられたので詳細な解析を行う事とした。 まず、上記移入マウスの腸管免疫細胞からハイブリドーマを作製し、抗OVA-IgAを産生するクローンを単離した。次に、作製したハイブリドーマから抗OVA-IgA抗体を精製した。この精製IgA抗体と様々な培養菌株を混合すると、どの菌株でも表面に抗OVA-IgAが結合する事が明らかとなった。このin vitroの評価系を用いて腸内細菌に対して非特異的に結合するIgAの特徴について解析を進めた。これまでに明らかとなった特徴は、以下の通りである。1.この結合には抗原結合部位は関与しない。2.精製した抗OVA-IgAは強いグリコシル化を受けている。3.どの腸内細菌にも結合するが、特にBacteroides Thetaiotaomicron (B.Theta)に強く結合する。 次にin vivoにおける非特異的IgAの役割を評価するアッセイ系の確立を試みた。作製した抗OVA-IgAを産生するハイブリドーマをB/T細胞の無いRag1欠損マウスの皮下に移植する(Back pack)と、腫瘍の皮下での増殖に伴って腸管内に抗OVA-IgAが分泌される事を確認した。この分泌レベルは正常マウスと同等であり、生体内での評価系として望ましいものである事が明らかとなった。これらの評価系を用いて、更に詳細な解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は腸内細菌のアレルギー反応制御に対する役割を解析する事を目的として開始した。しかし、研究の過程において腸内細菌が菌体抗原を認識し得ないIgA抗体によって被覆されている事を偶然見出した。この全く予想し得なかった観察結果を得た事が起点となり、当初計画したIgE産生だけではなく、より広義での腸内細菌の生理的影響を研究する必要性が生じてきている。 これまでの研究において、抗OVA-IgAを産生するハイブリドーマを単離し、さらに抗OVA-IgA抗体を精製する事によって、細菌抗原に対して非特異的に結合するIgA抗体の解析をする為の材料を得た。また、この抗OVA-IgA抗体がin vitroとin vivoの両方で腸内細菌に対して結合する事を確認できたので、今後より詳細な解析を進めるための基盤となるアッセイ系が確立できている。 今回見出した腸内細菌と抗原非特異的なIgAの結合は、過去の先行研究などから考えられるよりもずっと強いレベルで生じており、宿主に大きな生理的影響を及ぼしているものと思われるが、それがIgE産生やアレルギー制御に関与するとは限らない。したがって、今回確立したアッセイ系を用いて、様々な方向から生体の恒常性維持にどのように関わっているのかを解析して行く必要がある。現在までに、必要な実験システムを確立できているので、今後はこれらを用いて実際のメカニズムと役割について解析を進めていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で今後取り組むべき問題点として次の3点が挙げられる。1.腸内細菌はどのようにして非特異的IgAと相互作用するのか。2.この相互作用の結果として腸内細菌の恒常性にどのような影響をあたえるのか。3.この相互作用は宿主の生理機能や病態にどのような影響を与えるのか。 IgAと細菌因子の結合メカニズムについては、先行研究やこれまでの解析で得られた結果から、IgA抗体を修飾しているグリカンが重要な役割を果たしている事が予想される。これまでに確立したIgAと菌体の結合をフローサイトメトリーを用いて評価するアッセイ系により、どの糖鎖が重要であるかなどについて詳細な解析を加える。腸内細菌の恒常性の解析については、上記のBack packシステムを用いて腸管IgAとして抗OVA-IgAのみを分泌させ、この際に生じる腸内細菌種構成の変化や腸内細菌の機能変化を16SrRNAを用いたシークエンス解析や細菌の遺伝子発現を比較する事などにより検討する。宿主の生理機能や病態に関しては、IgAが非特異的に結合しやすいB.Thetaに注目して解析するのが効果的と考えられる。マウスにある種の抗生物質を投与すると、Bacteroidesをある程度特異的に除去できる事が示されているので、このシステムとBack packシステムを併用して宿主に対する腸内細菌の生理的影響を解析する。解析対象として、全身と腸管の免疫細胞に加えて大腸上皮などの局所因子も加えて解析する。 以上の検討により、腸内細菌とIgAの相互作用が宿主の生理機能にもたらす影響について明らかにして行く。
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