公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
胸腺の微小環境を形づくる胸腺上皮細胞(皮質上皮細胞と髄質上皮細胞)の分化機構と機能の解明は、T細胞の分化とレパトア選択のしくみを理解するうえで重要な課題である。本研究では、独自に樹立した皮質上皮細胞の減少を示す自然変異マウスTNに着目し、その疾患責任遺伝子の同定と表現型解析を行うことで、皮質上皮細胞の分化メカニズムの解明とT細胞免疫システムにおける胸腺皮質の生理的意義を明らかにすることを目的とする。TNマウスの原因遺伝子を同定するため連鎖解析と次世代シークエンシングを行い、Psmb11(β5t)遺伝子にミスセンス変異(G220R)を見出した。さらに、CRISPR/Cas9法を用いて遺伝子改変マウスを作製し、この変異が皮質上皮細胞の異常の原因であることを証明した。β5tは皮質上皮細胞に特異的に発現するプロテアソーム構成因子である。培養細胞および胎仔胸腺器官培養を用いた解析から、β5t (G220R)変異タンパク質はプロテアソーム形成を阻害し皮質上皮細胞の細胞死を誘導することが示された。従って、TNマウスは皮質上皮細胞を特異的に欠損する、胸腺皮質の研究に有用なモデル動物であることがわかった。TNマウスでは、αβT細胞(CD4 T細胞およびCD8 T細胞)の正の選択が障害され、TCRレパトアが大きく変容していた。また、TNマウスの胸腺では、IL-17産生能をもつγδT細胞(γδT17)のレパトアが変化し、Vγ4+ γδT17細胞の減少とVγ6+ γδT17細胞の増加が認められた。以上の結果より、胸腺皮質上皮細胞は、αβT細胞だけでなくγδT細胞のレパトア形成をも制御することが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
TNマウスの疾患責任遺伝子の同定を初年度に達成し、CRISPR/Cas9法を用いた検証や、培養細胞を用いた変異型β5tの機能解析を完了するなど想定以上の進展があった。また、TNマウスの表現型解析についても、胸腺組織解析や胸腺上皮細胞のフローサイトメーター解析、T細胞レパトア解析において成果を得ることができた。さらに、IL-17産生γδT細胞のレパトア変化という予想外の表現型を見出すことができ、胸腺皮質上皮細胞がαβT細胞だけでなくγδT細胞のレパトア形成をも制御するとの新たな知見を得るに至った。
初年度にTNマウスの原因変異の同定およびその機能検証を完了したため、今後は胸腺皮質上皮細胞を欠損するモデル動物としてのTNマウスの有用性に焦点を絞り、TNマウスにおける免疫システムの表現型解析を重点的に行う。TNマウス胸腺におけるγδT細胞サブセットについて、胎生期から成体期までの分化を定量的に解析するとともに、胸腺組織内の局在を調べる。皮質または髄質に局在するサブセットについては、ケモカイン受容体の発現パターンを調べ、研究展開に応じてケモカインシグナル欠損マウスを用いて胸腺内局在の意義を検証する。IL-17産生サブセット以外にも、IFNγやIL-4産生サブセットについて詳しく調べ、皮質上皮細胞がγδT細胞分化に及ぼす影響の全容を明らかにする。また、iNKT細胞や制御性T細胞、上皮間リンパ球(IEL)といった非典型的T細胞についても、TNマウス胸腺における分化や局在への影響を調べる。さらに、皮質上皮細胞がγδT細胞の分化を制御する分子メカニズムを明らかにするため、正常マウスの皮質上皮細胞や髄質上皮細胞、およびTNマウス由来の未熟上皮細胞を単離してマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行い、皮質上皮細胞に固有の発現を示す遺伝子を同定する。Skintファミリーなどの細胞表面分子やTNFSFに属するサイトカイン群などは有力な候補となりうる。見出された候補遺伝子については、CRISPR/Cas9法を用いて遺伝子欠損マウスを作製し、γδT細胞の分化と機能成熟を指標に表現型を解析し、機能を検証する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
Journal of Immunology
巻: 192 ページ: 630-640
10.4049/jimmunol.1302550
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 110 ページ: 21107-21112
10.1073/pnas.1314859111