公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
微小流路技術を利用して作成した刺激を時空間的に変動できるチャンバを用いて、本来細胞集団が形成するcAMP進行波を人工的に生成し、場と運動の相互依存関係を切り離して解析した。進行波刺激を与えたときの細胞運動の様子を解析し、細胞運動効率の周期依存性を調べる。その結果、5-6分で通過する波に対してのみ選択的に進行波とは逆の方向への細胞移動がみられることがわかった。そのときのFアクチン、およびRasの細胞膜状への局在の様子を観察し、これらの特徴が空間勾配検出の標準モデルの性質からただちに説明できないことを示した。モデルを再検討した結果、想定される大局的な抑制因子による出力シグナルの生成がミカエルメンテン型の酵素反応に従い、かつこれがゼロ次でVmaxに近い生成速度で抑制をかけている場合に、波の前面への選択性が説明できることがわかった。この性質は、自発的なRas活性が高い細胞については満たされず、実際にそうした細胞が、一様刺激にたいして、誘引物質から開放されたときに、強い負の応答を示してしまうこともよく説明する。進行波に対する走化性運動と分子動態との関係を解析したところ、その結果、進行波が繰り返されることで、細胞の移動速度が変化すること、またその応答も特徴的な形なることが明らかになった。FRETプローブによる細胞外cAMPの可視化は、膜の外側にFRETプローブを提示する系を作成、検討を進めている。また、集団効果による運動特性の解析のために細胞選別現象の可視化を進めた。
2: おおむね順調に進展している
モデル解析による理解は予想を上回る進展がみられた。論文投稿としてまとめるために、この点を優先したため、予定していた周期刺激やcAMPリレー応答との関係の解析がやや遅れている。研究計画全体で平均するとおおむね順調に推移している。
cAMP波の周期性の起源を1細胞のcAMP応答の性質から明らかにすべく、走化性運動中の細胞質cAMPレベルの変動をFRET計測から特徴づける。このことから、周期性の起源である不応期と脱適応の時間スケールと運動状態との関係を明らかにする。細胞骨格系の適応の時定数との関連が示唆されるため、アクチン重合の阻害剤処理した細胞や、逆にFアクチン重合が異常に活発であるSCAR/WAVE関連の変位株などのcAMP産生を野生株細胞と同様に特徴づける。また、微小チャンバ内で発生させた細胞集団が形成するcAMP 振動と走化性シグナル因子の動態を詳細に測定することより、細胞間接着による近接相互作用の有無や細胞密度に依存して振動周期の切り替わり(遷移)が起こるかを調べる。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 6件) 図書 (2件)
J. Cell. Sci.
巻: 126(20) ページ: 4614-4626
10.1242/jcs.122952
PLoS Comp. Biol.
巻: 9(6) ページ: e1003110
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