研究実績の概要 |
小脳は高度な神経活動に関与する中枢神経構造であり、層構造・神経回路構造は脊椎動物で保存されている。小脳の主要なグルタミン酸作動性ニューロンである顆粒細胞は、小脳原基背側(上菱脳唇)に存在する神経前駆細胞から分化する。さらに、成体においても顆粒細胞は産生され続けられる。本研究では、顆粒細胞の軸索伸長および細胞体の移動により層構造・神経回路が形成される仕組み、および成体において顆粒細胞が新生され神経回路がリモデリングされる仕組み、を理解することを目指した。 (1)顆粒細胞の軸索形成と細胞体移動の解析:顆粒細胞特異的Gal4系統を用いて、顆粒細胞の分化過程を1細胞レベルで解析した。小脳体の顆粒細胞の細胞体は、最初ランダムに運動した後停止し、軸索をランダムな方向に伸長する。しかし、軸索が他の軸索に近接すると方向を転換することから、軸索間の反発作用があることが想定された。この軸索間の反発作用が軸索を平行にするものと考えられた。小脳体の顆粒細胞は軸索伸長をしながら細胞体を腹側に移動させるが、軸索をレーザーで切断した際、細胞体移動が阻害されたことから、軸索形成と細胞体の移動は連動していると考えられた。 (2)顆粒細胞の成体ニューロン新生:顆粒細胞の前駆細胞は成体においても維持され続ける。小脳表層に存在するatoh1a,b,cを発現する前駆細胞が成体小脳でも増殖しており、これらの細胞が顆粒細胞に分化するとともに腹側の顆粒細胞層に移動し、神経回路をリモデリングしている。本研究では、顆粒細胞前駆細胞の維持に関わる細胞間シグナル分子の候補を同定した。 (3)顆粒細胞の軸索形成・細胞体移動を制御する分子の同定:顆粒細胞Gal4系統を用いて、神経回路形成中の顆粒細胞をFACSで単離しRNA-seqを行い、顆粒細胞に特異的に発現する遺伝子を収集した。神経回路形成・リモデリングに関与する候補遺伝子を選択し、変異体の作製を行った。
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