本研究課題は、細胞内タンパク質濃度ゆらぎ(遺伝子発現の確率性)と細胞間相互作用を利用し、単細胞大腸菌において、真核生物の細胞分化の現象を作り出すことが目的であった。昨年度では、ゲノム工学的検討が行われ、細胞分化の現象を起こす大腸菌細胞を作製した。今年度は、細胞集団や遺伝子発現など多階層レベルでの解析により、細胞の秩序に関わる普遍的規則を探索した。 まず、人工的遺伝子回路を設計し、大腸菌ゲノム上に導入したことで、遺伝子発現量の確率的変化(ゆらぎによる集団内ばらつき)を可視化した。つぎに、アミノ酸栄養素による細胞間相互作用を作り出したことにより、異なる表現型の大腸菌(分化した細胞)の定常的集団変化を可能にした。以上から、大腸菌の確率的細胞分化に成功した。分化する大腸菌の集団秩序の安定性には時間的制限があったため、普遍的規則を抽出に至らなかったが、4000次元の遺伝子発現変動においては、2次元まで抽出し、細胞内全遺伝子発現の最適化の共通的パス(遺伝子発現変動の秩序)を見出した。つまり、細胞レベルの計測による数理集団モデルから遺伝子レベルの高次元から低次元への情報抽出への方向転換に成功した。これにより、細胞種に問わない普遍的な規則があることが示唆された。
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