公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
1 研究目的の達成度研究代表者は、所属するグループが上皮細胞における細胞間接着分子の分子輸送の制御系として見出していたRab13-JRAB系が、分子輸送だけでなくアクチン細胞骨格の再編成を時空間的に制御することによって、集団的細胞運動で認められる秩序や法則性を生み出している可能性があることを明らかにしつつある。その過程で、Rab13との結合に依存してJRABの構造が変化する(closed formからopen form)ことを生化学的解析によって見出しており、JRABの構造変化とそれに伴う多彩な蛋白質-蛋白質間の相互作用が集団的細胞運動という非常に複雑な細胞機能を可能にするという仮説を提唱している。そこで、本研究では、JRABの構造変化と集団的細胞運動に関する本仮説を証明することを目的とする。前年度においては、Rab13とJRABの結晶化解析のために各々の全長および複数のドメインのリコンビナント蛋白質の発現・精製を試みた。これまでに発現量増加を期待してC末端を一部欠損させた活性型Rab13とRab13との結合部位を含んだJRABのC末端ドメインの複合体を精製することに成功している。また、JRABの構造変化に依存した相互作用を示す分子の探索を行い、JRABのopen formに特異的に結合する分子としてfilaminを同定し、JRAB-filaminがアクチン細胞骨格の再編成の制御に基づく細胞の形態変化(cell spreading)に関わることを明らかにしている。さらに、JRABの構造変異体を発現させた上皮細胞の集団的細胞運動について、理化学研究所の横田秀夫先生のグループとともにコンピュータサイエンスによるアプローチで各構造変異体に特徴的なライブイメージング像の分析を行い、現在までに、各々の構造変異体が示す野生型とは異なった特徴を抽出し、定量することに成功している。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、Rab13-JRAB複合体の構造解析のためにRab13活性型変異体およびJRABのリコンビナント蛋白質の発現・精製を試みた。Rab13活性型変異体の発現は非常に悪かったが、JRABとの結合能を維持したC末端欠損変異体を見出してバキュロウイルス発現系で発現させ、発現量を劇的に増加させることに成功した。この活性型Rab13の欠損変異体を用いてRab13-JRAB C末端ドメインの複合体をゲル濾過カラムクロマトグラフィーで高度に精製することができた。これまでにJRABのopen formに特異的に結合する分子としてアクチン結合蛋白質であるactinin-1やactinin-4を見出していたが、今回、別のアクチン結合蛋白質であるfilaminを同定することに成功した。さらに、NIH3T3細胞においてJRAB-filaminの機能解析を進め、JRAB-filaminが細胞の形態変化(cell spreading)を引き起こすことを明らかにした。レトロウイルス発現系を用いてJRABのFRETプローブを恒常的に発現している上皮細胞株を樹立し、現在、集団的細胞運動時にJRABが集団内での細胞の位置や細胞内での局在に応じた構造変化を起こしているか否かをライブイメージングで検討しており、すでに予備的解析結果は得ている。研究代表者は、これまでにJRABの構造変異体を発現させた上皮細胞の集団的細胞運動において各構造変異体に特徴的なライブイメージング像を見出している。今回、理化学研究所の横田秀夫先生のグループとともにそれらのライブイメージング像を分析し、各々の構造変異体が示す野生型とは異なった特徴を抽出し、定量することに成功した。さらに、予想通り、野生型の細胞集団は2つの変異体の特徴を融合した振る舞いをしていることも明らかにできた。
本研究では、Rab13との結合によるJRABの構造変化と集団的細胞運動に関する仮説の証明を目的として、下記の4つの項目に焦点を絞って解析を引き続き行う。(1)集団的細胞運動におけるアクチン細胞骨格の再編成の制御機構の解明:集団的細胞運動の集団内での位置に応じて異なるアクチン細胞骨格の再編成をRab13-JRAB系がどのように制御するのかを理解するため、JRABの構造変化のトリガーおよびJRABの構造維持機構に関わるシグナル伝達経路を同定する。(2)集団的細胞運動における細胞内小胞輸送の制御機構の解明:集団的細胞運動の際に形成される細胞-基質間接着および細胞間接着に関わる接着分子群の細胞内小胞輸送とRab13-JRAB系との関係を解析する。具体的には、Rab13および接着分子群をマーカーにして輸送小胞を単離し、LC-MS/MS解析によって小胞上の蛋白質を網羅的に同定し、その足がかりとする。(3)Rab13-JRAB系が制御する集団的細胞運動の数理モデルの構築:前年度は、理化学研究所の横田秀夫先生のグループとともに各構造変異体が示す特徴を抽出・定量することに成功した。本年度は、それらの特徴を教師とした分類により野生型の集団的細胞運動を分析し、JRABの構造変化が生み出す秩序や法則性を明らかにする。(4)3次元培養あるいは個体レベルでの解析:本年度は、2次元の解析で得られた結果を3次元に当てはめることを試みる。まず、器官形成を模擬する3次元培養において、JRABの構造変化や各変異体を発現させた細胞の動態をタイムラプスイメージングで観察する。さらに、JRABの各変異体を発現させた乳がんや肺がん細胞をマウスに移植し、そこで認められるがん細胞の浸潤・転移の際の集団的細胞運動を解析する。
すべて 2015 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件)
Cell Polarity: Biological Role and Basic Mechanisms
巻: 1 ページ: 349-374
10.1007/978-3-319-14463-4_15
Genes Cells
巻: 18(9) ページ: 810-822
10.1111/gtc.12078