研究領域 | 動く細胞と場のクロストークによる秩序の生成 |
研究課題/領域番号 |
25111733
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
小山 宏史 基礎生物学研究所, 初期発生研究部門, 助教 (10530462)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 発生細胞生物学 / 力学 / 数理 |
研究概要 |
胚発生時の形態変化は、生体の外部からの機械的な力ではなく、生体の内部の自発的な力学的状態の制御によって引き起こされる。すなわち、細胞が自発的に自身の力学的状態(張力、細胞間接着力、運動性など)を変化させることに起因する。しかしながら、胚の内部がどのような力学的状態にあるか、また、それが個別の細胞のどのような力学的状態の変化によって引き起こされるかはほとんど理解されていない。本研究では、胚の内部の力学的状態、および、個別の細胞の力学的状態を数理学的に推定することを計画した。これらの推定結果は、胚発生時の力学的理解における基盤になると期待している。 本年度では、力学的状態を推定する2つの方法を構築した。いずれも胚の内部の細胞の動きの情報を用いる。最初に、蛍光タンパク質でラベルした細胞を発現するマウスを用いて、胚発生時の細胞の動きをライブで追跡する系を構築した。次に、細胞の動きを数理シミュレーションできる数理モデルを作った。この際、個別の細胞の力学的性質をパラメータとして導入した数理モデルと、導入しない数理モデルの2種類を構築した。これら2つの数理モデルについて、ライブ観察で得られた細胞の動きを再現できるパラメータの値を探索する方法を構築した。本推定法によって、マウスの着床前胚における力学的状態の推定に成功した。発生ステージによる胚全体の力学的状態の変化、個々の細胞の力学的状態の相違、などが検出された。また、培養細胞系においても同様の推定を行ったところ、マウス胚における推定結果とは顕著な相違が検出された。以上から、本推定方法が、細胞集団の力学的状態、および、個別の細胞の力学的状態を評価する有用な系になりうることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
力学的状態の推定方法の構築は順調に進んだ。当初、系が巨大化した場合に非現実的な計算時間がかかるという問題が生じたが、計算手法等の改良によって、現在、数百細胞の系まで対応可能となった。また、当初予定していなかった2種類の推定方法を構築した。これによって、胚の内部の力学的状態を、組織レベルおよび細胞レベルで多角的に評価できる可能性が広がった。 構築した推定法を用いたマウス着床前胚の力学的状態の評価は順調に進んだ。その結果、いくつかの特徴的な力学的挙動を捉えることに成功した。一方で、マウス着床後胚については、細胞の検出ならびに動きの追跡がそれほど容易でないことが判明したので、今後の改良が必要である。 培養細胞系を並行して解析を行ったことで、本推定法が細胞集団および細胞種の相違を判別できることが明らかとなった。これは本推定法の有用性を示す重要な結果である。すなわち、胚発生時の分化に伴う細胞の力学的性質の変化などを検出する指標となりうる。 胚および細胞の力学的状態を検出する分子プローブの開発を試みたが、検出感度が非常に悪く、現状では個体に適用できる精度にない。
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今後の研究の推進方策 |
マウス着床前胚では、力学的状態の推定によっていくつかの特徴的な力学的挙動を捉えることに成功した。今後、これらの力学的挙動と胚発生との関係性を、胚の形態の変化、細胞分化、といった視点から検証を行う。そのために、力学的な攪乱実験、あるいは、細胞分化マーカーを用いた解析を行う。 マウス着床後胚では、細胞の検出と動きの追跡を改善する必要がある。細胞を画像処理・解析的に検出する方法等の開発を試みる。その後、着床後胚での力学的状態の推定を行い、力学マップの作成を目指す。 マウス胚の解析と並行して、培養細胞系での解析を行う。細胞の種類の相違、細胞に対する各種の外的攪乱によって、力学的状態の推定値がどのような影響を受けるかを総合的に評価することを目指す。これらの解析は、推定された力学的状態が、細胞あるいは細胞集団のどのような状態を反映しているかを総合的に判断するための基本となる情報となると期待される。すなわち、胚における推定結果を評価する上で有用な情報になると考えられる。 力学分子プローブについては検出感度を上昇させるような改変を試みて、培養細胞系での適用を目指す。
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