研究領域 | ユビキチンネオバイオロジー:拡大するタンパク質制御システム |
研究課題/領域番号 |
25112517
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西山 正章 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (50423562)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 鉄代謝 / ユビキチン |
研究実績の概要 |
本研究はユビキチン化による鉄代謝制御メカニズムの全貌を解明すると共に、発がん・神経変性疾患などの鉄代謝関連疾患にこのシステムがどのように関与しているのかを明らかにすることを目的としている。胎生期の神経特異的なFBXL5ノックアウトマウスは出生直後死となるが、組織学的な解析を通して、主に神経前駆細胞の増加が中枢神経機能障害を引き起こしていることが明らかとなったことから、胎児期神経発達において厳密な鉄代謝制御が重要であると考えられた。FBXL5の肝臓特異的ノックアウトマウスに対し、発がんモデルマウスであるHCVコア抗原トランスジェニックマウスと交配し解析を行うことで、鉄代謝異常がHCVモデルマウスにおいて発がんを亢進させることが明らかとなった。また、化学発がんによる肝臓がんモデルマウスにおいて、FBXL5の欠損による発がんの促進がFBXL5/IRP2ダブルノックアウトマウスで抑制されたことから、IRP2の過剰ががん化の原因であることが明らかとなった。培養細胞レベルでIRP2の発現を抑制する核酸医薬を同定することに成功した。造血幹細胞特異的FBXL5ノックアウトマウスの骨髄移植実験を行ったところ、骨髄再構築能が極めて低下していることを見いだした。FBXL5/IRP2ダブルノックアウトマウスやIRP2ノックアウトマウスの造血幹細胞の骨髄再構築能はほぼ正常であった。以上より、FBXL5欠損による鉄代謝制御システムの破綻が組織幹細胞の機能を障害することが明らかとなった。さらにin vitroの実験の知見から鉄による活性酸素の産生が機能障害を引き起こしていることが明らかとなった。以上より胎生期神経発達、発がん、組織幹細胞の機能維持においてFBXL5-IRP2系による鉄代謝制御は重要な働きを担っていることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上位のユビキチンリガーゼによってFBXL5が分解制御を受けていることが明らかになり、いくつかの候補を同定できたことにより、鉄代謝制御システムへのユビキチン修飾系の複雑な関与が明らかになりつつある。肝臓・神経・造血幹細胞特異的FBXL5ノックアウトマウスを作製し、肝発がん、神経変性疾患、組織幹細胞維持機構と鉄代謝の関係に関して詳細な機能解析を行い、これらの病態に鉄過剰による主に活性酸素を通した機能障害が関与していることが明らかとなった。これらの知見は当初の研究目的に適っており、順調に達成されつつあると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
FBXL5の上位のユビキチンリガーゼをスクリーニングで得られた候補より生化学的手法を用いて同定し、細胞内鉄代謝制御機構の全貌を明らかにする。肝臓特異的FBXL5ノックアウトマウスの発がんを予防、治療できるようなIRP2阻害剤を開発し臨床応用につなげる。神経特異的FBXL5ノックアウトマウスをヒト神経変性疾患モデルマウスとして解析を行い、様々な神経変性疾患の病態解明、治療応用につなげる。造血幹細胞特異的FBXL5ノックアウトマウスにおける幹細胞性の維持機構破綻のメカニズムを明らかにすることを通じて、鉄代謝制御機構の組織幹細胞の機能維持における重要性を明らかにする。
|