細胞は増殖の過程で細胞表層に様々な環境ストレスを受け、傷つく。傷の周りにアクチンや微小管、Rho型GTPaseなどが集まり、細胞質分裂とよく似た仕組みで速やかに行われる修復を「細胞創傷治癒(Cellular wound-healing)」と呼ぶ。これに欠損があるとデュシェンヌ型筋ジストロフィー症を発症するが、詳細な分子機構は解明されていない。 今回、出芽酵母の強力な遺伝学を背景に、ポストゲノム時代のツールを駆使して細胞創傷治癒に関与する遺伝子の網羅的同定を行った。その結果22のユビキチン・プロテアソーム関連遺伝子を含むヒットを同定した。更なる解析により、傷ついた細胞が細胞周期を停止する「細胞創傷治癒チェックポイント」を初めて見出した。 スクリーニングヒットのうち極性輸送を制御するESCRTタンパク質はモノユビキチン化によって活性制御を受けることが知られている。今回、ESCRTタンパク質は膜損傷直後の応急処置的な緊急応答に必要であることが明らかになった。また、細胞創傷治癒チェックポイントにおいては、Cdkを阻害するWee1ホモログSwe1のポリユビキチン化とその後のタンパク質分解が抑制されていることが明らかになった。膜修復を完了して通常の増殖に復帰する際に、膜修復に必要な細胞骨格制御タンパク質がポリユビキチン化されプロテアソームにより分解されることも示唆された。 以上より、細胞創傷治癒の過程では多様なユビキチンコードが重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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