公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
申請者は抗がん剤感受性を制御する自然免疫因子のスクリーニングにより、アポトーシス細胞貪食因子であるTIM-4を同定した。マクロファージによるアポトーシス死細胞貪食・処理機構は、様々な受容体を介して制御されており、病態特異的な微小環境における免疫応答を調節するうえで重要な役割を果たしている。とくにTIM-4 はマクロファージに限局した特異的分子であるアポトーシス死細胞に表出するリン酸化セリンを特異的に認識することで死細胞貪食に貢献していること、さらにT、B細胞活性を負に制御する作用を有することが報告されている。ただしTIM-4による免疫制御が、抗腫瘍免疫応答に与える影響についてはこれまで不明であった。申請者は、腫瘍内マクロファージにおけるTIM-4発現が、正常マクロファージと比較して高発現していることを明らかにした。さらに、TIM-4が抗がん剤により誘導されたアポトーシス腫瘍細胞を認識後にPhagosomeに移行し、AMPK-α1と結合、活性を誘導することで、Autophagosome形成に寄与することを見出した。TIIM-4-AMPKα1経路を介在した細胞貪食とオートファジー双方の活性は死細胞の過剰分解を誘導することで、抗原特異的免疫応答に必要な抗原量の低下を引き起こし、Deletion toleranceを介した抗腫瘍免疫抑制に貢献していることを同定した。さらに、腫瘍内マクロファージにおけるTIM-4-AMPKα1-オートファジー経路を介した免疫寛容システムは、抗がん剤による抗腫瘍応答抑制に重要であることを、骨髄キメラシステムによるin vivo腫瘍モデルにおいて証明した。以上は、抗がん剤治療耐性に免疫制御機構が果たす役割の一旦を解明した点で、斬新な制がん法開発につながる成果と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
抗がん剤感受性を規定する免疫側因子のスクリーニングはおおむね順調に遂行されており、そのうちのひとつであるマクロファージ特異因子TIM-4について、抗がん剤抵抗性に果たす分子メカニズムや治療標的としての可能性について十分な解析がなされており、その成果を論文成果として上梓できた(Baghdadi M, et al., Immunity, 39: 1070-1081, 2013)。さらに、スクリーニングで同定された他因子についても現在その機能的解析を開始しており、さらに重要な知見が創出される可能性を有している。以上より、平成25年度計画案である「1. 腫瘍内ミエロイド細胞より特異的に産生される自然免疫制御因子の同定を目的とした網羅的解析」および「自然免疫制御因子が腫瘍細胞の生物学的特性に与える影響の検証」についてはおおむね順調に計画遂行がなされており、順調であると考える。
1. ミエロイド細胞由来因子が発がん活性や抗腫瘍剤の治療効果に及ぼす影響を詳細に検証するため、In vivoモデルを対象に、マウス腫瘍細胞の皮下摂取、あるいは脾注や静注による転移モデルを対象に、腫瘍造成、転移活性に与える影響を検証する。また、抗がん剤による腫瘍抑制効果に及ぼす影響も検証する。またex vivoでの自己複製能、細胞死誘導能、血管新生能の検証を行う。腫瘍浸潤転移能についてEMT獲得能や転移特異的遺伝子プロファイルを参考にした分子群誘導の有無の検討、腫瘍浸潤リンパ球のEx vivoでの抗腫瘍免疫応答の検討を試みる。2. 自然免疫制御因子を特異的に標的化する抗体の作成を行うとともに、低分子ライブラリーを用いた阻害剤の検索を行う、その特異性を決定する。具体的にはin vivoでの腫瘍縮退効果の検証、および抗がん剤併用による相乗効果の有無について検討する。さらに、in vitroでの癌幹細胞の自己複製、抗がん剤抵抗性、EMT変化に、自然免疫制御因子を標的とする抗体、阻害剤が及ぼす影響を検証する。3. 自然免疫制御因子を介した分子経路の活性が、実際に抗がん療法を受けた担癌患者の治療応答性や予後を反映しているか、以下の方法で検討を行う。具体的には、抗がん治療投与を受ける前後での胃癌、膵癌、大腸癌や肺小細胞癌の腫瘍組織および血清サンプルを対象とする。自然免疫制御因子や、それにより影響をうける自然免疫シグナル・カスケードに関連する遺伝子を対象に RT-PCRにて定量化する。各々の結果を、治療前後および治療経過中に抗癌剤不応性を呈した時期で区分化して、因子発現および関連シグナル活性化の程度と再発、治療不応性、生存率との相関性について統計的に検証する。以上の検証より、ヒト癌の抗癌剤応答性や予後において、自然免疫制御因子とそのシグナル修飾効果が果たす臨床的意義を明らかにする。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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