公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma, AITL)は、血管と炎症細胞に富む難治性の末梢性T細胞性リンパ腫であり、腫瘍細胞は濾胞性ヘルパーT細胞の形質を示す。予備的研究により、腫瘍組織で同定される遺伝子変異の一部が、T細胞に分化する前の骨髄前駆細胞の段階で生じている可能性が示唆されていた。今回、多数のAITL症例において、腫瘍細胞だけでなく、種々の系統の血液細胞でTET2およびDNMT3Aといったエピゲノム制御遺伝子に同一の変異が同定された。このことは、多能生骨髄前駆細胞の段階でこれらの遺伝子に変異が生じてクローンが拡大し、このクローン細胞がT細胞に分化した後に二次的な遺伝子変異が生じて腫瘍化していることを強く示唆する。さらに、AITLの腫瘍組織内の腫瘍細胞と炎症細胞が、同一のクローンに派生することを意味する。実際、AITLの約70%においてRHOA遺伝子の変異を同定したが、RHOA変異は腫瘍細胞特異的であることも示された。これらの成果は、Nature Genetics誌(46:171-175, 2014)に掲載された。一方、TET2遺伝子をノックダウンしたマウスは、1年以上経過した後にT細胞リンパ腫を発症し、この腫瘍細胞は濾胞性ヘルパーT細胞の形質を示していたが、AITLの組織形態は示さなかった。また、変異RHOAを導入した造血前駆細胞を移植しても、T細胞リンパ腫は発症しなかった。これらの観察から、TET2変異を背景としてRHOA変異を獲得することが、AITLの発症に密接に関与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
多数の血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma, AITL)検体を用いて遺伝子解析を行い、「腫瘍組織で同定される遺伝子変異の一部が、T細胞に分化する前の骨髄前駆細胞の段階で生じている」という仮説を、具体的に示すことに成功した。これが達成されたのは、AITLの70%でRHOA遺伝子の変異を同定したこと、その全例でTET2遺伝子変異も同時に生じていることを証明したことが貢献している。さらに、腫瘍細胞ではTET2遺伝子変異とRHOA遺伝子の両者が同定されるのに対し、腫瘍細胞以外の血液細胞ではRHOA遺伝子変異は同定されないが、TET2遺伝子変異が同定された。すなわち、腫瘍細胞が生じる前段階の細胞を同定した。これらの成果は一流誌に掲載することができたことから、計画は概ね順調に進展しているといえる。腫瘍組織内の微小環境で生じている具体的なコミュニケーションやマウスモデルについて、さらに解析を続けることでさらなら成果が期待できる。
腫瘍細胞を分離するとともに、種類の異なる炎症細胞を分離して遺伝子変異解析を行うことにより、腫瘍細胞と個々の炎症細胞との階層性を明確にする。具体的には、全エクソンシークエンスを完了している9例のAITL標本から、細胞1個の解像度で腫瘍細胞(濾胞性ヘルパーT細胞形質を持つ細胞)、非腫瘍性T細胞、B細胞、好中球、好酸球、マクロファージ、血管内皮細胞をレーザーマイクロダイセクションにより捕捉する。それぞれの種類の細胞からDNAを抽出し、個々の腫瘍で同定した変異箇所についてシークエンス解析を行なう。一方、マウスモデルを用いて、AITL腫瘍細胞と腫瘍細胞内の炎症細胞とがパラクラインループを形成してAITLを成立させている、との仮説を実証する。申請者らが解析しているTET2ノックダウンマウスは、出生後週齢を重ねると濾胞性ヘルパーT細胞の増加が認められ脾腫を呈するようになる。そして高齢になると、濾胞性ヘルパーT細胞形質を持つ細胞が腫瘍化するが、AITLの組織像は呈さない。そこで、TET2遺伝子改変マウスと、ヒトAITLで同定したRHOA変異導入マウスとを交配し、よりAITLに近いマウスモデルが作製できるか検証する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
Nature Genetics
巻: 46 ページ: 171-175
doi:10.1038/ng.2872
http://www.tsukuba.ac.jp/wp-content/uploads/p201401130300.pdf