研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
25112707
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
妹尾 浩 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90335266)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 炎症 / 転写 / シェディング / 大腸 / 癌 |
研究概要 |
メタロプロテアーゼの一種Nardilysin (NRDc)は、ADAMプロテアーゼの活性化を介して、TNF-alpha、EGFファミリー、Notchなど多数の因子の「過剰な活性化」をもたらす。NRDcは癌組織で発現が増強し、NRDc KOマウスでは、腸腫瘍形成が顕著に抑えられる。さらに、NRDcが核内でPGC-1alphaなどと協調して転写を直接制御する可能性も示されている。細胞膜上と核内の双方で機能するNRDcが癌微小環境で果たす役割を検討し、平成25年度には以下の結果を得た。 1.NRDcが活性化するサイトカイン・増殖因子の相互関係の解明:DSS投与を行って生じた腸炎組織において、NRDc KOマウスではTNF-alphaのシェディングおよび活性化が顕著に抑制された。 2.サイトカイン・増殖因子のネットワークを活性化するNRDc発現細胞の同定:NRDc floxed KOマウスの樹立に成功し、Villin-creマウスとの交配を開始した。 3.NRDc/Notchによる癌細胞・癌幹細胞の未分化性維持機構の解析:NRDcへテロKOマウスにAOM/DSSを投与し、Notchの細胞外ドメインのシェディングおよびHes1の活性化状態を転写、蛋白レベルで検討した。また、NRDcへテロKO; ApcMinマウスの作出を開始した。 4.核内でのNRDcによる直接的な転写制御機構の解明:WTおよびNRDc KOマウスの腸管を用いてPGC-1alphaの標的遺伝子群の発現を検討した。また、NRDcと癌細胞の核内で協調する因子としてNCoR/SMRT複合体を同定した。 5.多くの臓器におけるNRDcの普遍的意義の検討:胃癌または膵癌モデルマウスとNRDc KOマウスの交配を開始した。また肝発癌への影響を検討するために、NRDc KOマウスにコリン欠乏食等を投与して、NASHモデルの解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NRDcが癌微小環境を活性化して癌を進展させるメカニズムを明らかにし、同時にトランスレーショナルリサーチのシーズとしてのNRDcの意義を検証するために予定していた諸項目は、当初の計画にほぼ準じて、あるいは複数の項目では当初の計画以上に順調な進捗を示した。 1.NRDcが活性化するサイトカイン・増殖因子の相互関係の解明:DSS投与を行ったマウスの炎症部腸管を用いて、NRDcの有無による種々の蛋白のシェディング状況を解析した。平成25年度には、最も重要なTNF-alphaのシェッディングがNRDcによって制御されることを示した。 2.サイトカイン・増殖因子のネットワークを活性化するNRDc発現細胞の同定:当初の計画よりも早期にNRDc floxed KOマウスの樹立が成功したため、Villin-creマウス等のcreマウスと交配を早期に開始することが出来た。 3.NRDc/Notchによる癌細胞・癌幹細胞の未分化性維持機構の解析:NRDcへテロKOマウスにAOM/DSSを投与し、Notchの細胞外ドメインのシェディングおよびHes1の活性化状態を転写、蛋白レベルで検討した。NRDcヘテロKOによるシェディング活性の変化は野生型とKOマウスの中間であるため、マウスの個体数を増やして解析を進めた。 4.核内でのNRDcによる直接的な転写制御機構の解明:WTおよびNRDc KOマウスの腸管を用いてNRDcとPGC-1alpha発現の関係を生体の微小環境内で検討した。当初の計画を超えて、PGC-1alpha以外にも癌細胞核内でNRDcとともに転写を制御する因子を同定した。 5.多くの臓器におけるNRDcの普遍的意義の検討:胃癌モデルについてはNRDc KOの影響を開始でき、また肝についてもNRDcが微小環境に及ぼす影響を検討することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度には、NRDcの多面的役割を検討するために、以下の方策を立案する。これらの研究を通じて、NRDcを中心とした多岐にわたるサイトカイン・増殖因子のネットワーク活性化機構を明らかにし、NRDcの核内転写制御機構も含めて、NRDcが癌の微小環境を活性化してがん進展をもたらすメカニズムを探究する。それにより、新規の癌治療法開発に直結するシーズとしてのNRDcの可能性を検証したい。 1.NRDcが活性化するサイトカイン・増殖因子の相互関係の解明:平成25年度に引き続き、上皮と間質の細胞とわけて、代表的なシグナル伝達系の活性化状態を検討する。 2.サイトカイン・増殖因子のネットワークを活性化するNRDc発現細胞の同定:NRDc floxed KOマウスとVillin-cre、LysM-cre等のcreマウスとの交配を終了する。AOM/DSS投与による炎症性発癌モデルの検討およびApcMinマウスとの交配を行い、NRDcが腫瘍形成に及ぼす影響を解析する。 3.NRDc/Notchによる癌細胞・癌幹細胞の未分化性維持機構の解析:平成25年度から作出のNRDcへテロKO; ApcMinマウスの腸腫瘍を用い、多数検体でNotchの細胞外ドメインのシェディングおよびHes1の活性化状態を検討する。 4.核内でのNRDcによる直接的な転写制御機構の解明:NRDcとPGC-1alphaによって転写が制御される因子の解析を継続する。さらに平成26年度はNRDcがNCoR/SMRT複合体の働きを介して、種々の遺伝子発現を転写レベルで制御しているメカニズムも検討する。 5.多くの臓器におけるNRDcの普遍的意義の検討:胃癌モデルマウスに加え、肝、膵等でも、NRDc KOの影響を検討する。
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