研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
25112710
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研究種目 |
新学術領域研究(研究領域提案型)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井垣 達吏 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00467648)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | がん / 細胞間相互作用 / 細胞極性 / がん微小環境 / 細胞競合 |
研究概要 |
上皮がんの発生・進展には、上皮細胞の頂底極性 (apico-basal極性) の崩壊が深く関与している。ショウジョウバエ上皮組織においても、apico-basal極性が崩壊した細胞は際限なく増殖を続け腫瘍を形成するが、興味深いことに、これら極性崩壊細胞はその周囲を正常細胞に囲まれると過剰増殖できず、むしろ組織から排除される。具体的には、ショウジョウバエ成虫原基の上皮組織において、進化的に保存されたneoplastic tumor suppressor geneであるscrib遺伝子に変異をもつ極性崩壊細胞が正常細胞に囲まれた状態で出現すると、その極性崩壊細胞は細胞死を起こして組織から競合的に排除される(細胞競合による排除)。本研究では、この細胞競合モデル系を用い、極性崩壊細胞を取り巻く正常細胞にランダムな突然変異を加えて、これにより極性崩壊細胞が排除されず高い増殖能を発揮して組織に腫瘍を形成するようになる変異体を探索する。さらに、その責任遺伝子を同定して細胞競合における役割と動作機序を明らかにすることで、極性崩壊細胞を取り巻くがん微小環境の分子基盤を明らかにする。 平成25年度は、正常細胞によるscrib変異細胞の排除が抑制される変異体(elimination-defective; eld系統)を複数単離することに成功し、中でも特に強い表現型を示すeld-4変異体の解析を進めた。その結果、eld-4変異細胞に囲まれたscrib変異細胞は排除を免れ、過剰に増殖して組織にメラニン化を引き起こすことが分かった。また、この表現型は別のapico-basal極性遺伝子であるdiscs largeの変異細胞に対しても同様に観察された。メラニン化の表現型を指標に責任遺伝子領域を狭めた結果、eld-4の責任遺伝子候補として細胞膜上のリガンド様タンパク質をコードする遺伝子を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ショウジョウバエ上皮をモデル系として用い、極性崩壊細胞(前がん細胞)と正常細胞の間の細胞間コミュニケーションを介したがん制御の分子機構を生体レベルで解析することで、上皮細胞間の相互作用を介したがん微小環境の構築原理の解明を目指すものである。これまでの本研究により、極性崩壊細胞を取り巻く正常細胞において、極性崩壊細胞を組織から排除するのに必要な遺伝子の変異体を単離することに成功している。現在、その責任遺伝子の同定に近づいており、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究ではこれまでに、極性崩壊細胞を取り巻く正常細胞において、極性崩壊細胞を組織から排除するのに必要な遺伝子の変異体(eld-4変異体)を遺伝学的スクリーニングにより単離することに成功している。また、eld-4変異体の責任遺伝子候補を遺伝学的に突き止めている。そこで今後は、まずレスキュー実験やRNAi実験によりeld-4の責任遺伝子を同定した後、当該遺伝子のがん微小環境制御における役割とその動作機序を遺伝学的、組織化学的、生化学的、及び分子生物学的アプローチにより明らかにしていく。また、当該遺伝子の破綻による腫瘍形成機構を、各種がん遺伝子活性との相互作用を解析しながら明らかにしていく。
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